制作:(株)相愛
アンカー工は、緊張力を継続的に保持し続ける必要上から、施工後の供用段階における機能維持が重要であることが既存アンカーの点検・調査などで判明してきており、「グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説(地盤工学会,2012)」では維持管理を前提とした工法と位置付けられている。
アンカー工の変状は、地すべり変動や斜面崩壊及びその誘因の豪雨豪雪・地下水位の変化などから成る地質的要因や、防食材の劣化・流出・不足、防食不良などから成る材料的要因を原因として、過大な緊張力の作用、受圧構造物の変位、テンドンの腐食、アンカー体の引抜き抵抗力の低下、アンカー頭部材料の損傷などが生じる(表1)。
これによって、テンドンの破断・引抜けなどが発生し、受圧構造物・斜面などの変状・崩壊、アンカー頭部の飛び出し・落下などの重大な機能低下へと進展していく。
表1 代表的な劣化・損傷の事例 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)
施設区分 | 状況と特徴 | 写真 |
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テンドン |
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※旧タイプアンカーとは、1988年11月制定土質工学会基準「グラウンドアンカー設計・施工基準」(JSF:D1-88)以降の学会基準に準拠していない構造のアンカーをいう。 |
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定着具 |
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頭部キャップ・コンクリート |
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受圧構造物 |
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旧タイプアンカーについては、鋼棒タイプ・鋼より線タイプともにテンドンの腐食による破断事例が顕在化していることから、点検においてはその判定が重要である。判定方法の概要を表2に示す。
表2 旧タイプアンカーの判定方法 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)
区分 | 概要 |
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アンカー構造 | |
設計・施工年次 |
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工法名 |
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外観 |
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点検は、原則として対象斜面に配置された全アンカー群の点検を行うが、優先順位については重要度や緊張力の他に受圧構造物の種類・形状及び打設地点の地盤特性などを考慮して決定する必要がある(表3)。
表3 アンカー工の点検種別と概要 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)
点検種別 | 概要 | 時期・頻度 | 備考 |
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初期点検 |
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日常点検 |
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定期点検 |
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異常時点検 |
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点検票の変状レベル評価基準に基づき、1群のアンカー工に対する総合判定を行う(表4)。
表4 アンカー工の総合判定 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)
対応レベル | 総合判定 | 対応 |
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Ⅰ |
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【対策検討】
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Ⅱ |
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【要詳細調査】
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Ⅲ |
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【経過観察】
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Ⅳ |
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【記録保管】
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各構造(アンカー頭部・引張り部・受圧構造物・周辺地盤)の変状レベルの評価基準と点検票については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。
近年の調査事例では、頭部外観調査では軽微な変状レベルのアンカーが、リフトオフ試験を行うと残存引張り力が許容範囲を逸脱している場合や、その逆の場合も報告されている。よって、標準的な詳細調査の組み合わせとしては、頭部外観調査からリフトオフ試験までを1つの調査単位として実施することが望ましい(表5・図1)。
表5 詳細調査手法の概要と実施数量の目安 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)
調査手法 | 概要 |
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頭部外観調査 |
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頭部露出調査 |
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リフトオフ試験 |
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頭部背面調査 |
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維持性能確認試験 |
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図1 アンカー工の詳細調査の手順と後続の詳細調査の関連性 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)
総合判定(Ⅰ~Ⅳ)及び劣化診断基準(a~d)は、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。
写真1 リフトオフ試験状況
リフトオフ試験とは、アンカーの残存引張り力を測定する試験であり、維持管理段階の試験として一般的に実施されている。
アンカーの残存引張り力は、地盤のクリープやテンドンのリラクセーションなどの影響により時間経過に伴い少しずつ減少する他、外力の変化や地盤の変位の影響を受けた場合は緊張力が大きく増減することがある。また、アンカーシステムの機能低下が発生した場合にも、緊張力が変化する。
よって、リフトオフ試験を実施して、残存引張り力を把握し荷重-変位特性を評価することにより、1群のアンカー工と対象斜面の機能維持の状況を定量的に確認する。
図2 リフトオフ試験装置の例
(地盤工学会,2012)
試験にあたっては、まずテンドンの再緊張余長が、緊張ジャッキをセットするための必要長以上を有しているかを判定する必要がある。一般値として、PC鋼より線の場合は10cm以上、ナットタイプのテンドンの場合はカップラーを連結するネジ代以上の長さが必要である。
再緊張余長が十分でない場合でも、特殊治具により定着具を直接つかむ装置も開発されているため、専門技術者の意見を参考にするとよい。
頭部露出調査の結果、過緊張やアンカー材の損傷の程度によって、リフトオフ試験時に破断や飛出しが発生する危険性が懸念される場合は、専門技術者が慎重に検討した上で、試験を行わない判断を下すこともある。
リフトオフ試験の手順を、図3に示す。
リフトオフ試験による荷重-変位量曲線の例を、図4に示す。
図4 リフトオフ試験結果グラフの例(地盤工学会,2012)
図3 リフトオフ試験の手順
①試験結果の整理
②劣化診断(残存引張り力の評価)
表6 残存引張り力とアンカー健全度の目安 (地盤工学会,2012)(一部加筆修正)
Tys:テンドンの降伏引張り力
図5 アンカー健全度区分図の例(酒井,2010)
その他の詳細調査手法については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。
アンカー工の長寿命化及び機能回復手法は、アンカー工による対策の目的とその要求性能に対する健全性の判定を行い、機能評価時の性能レベルから目標とする性能レベルに回復させるために必要な対策を選定するものである。
アンカー工の長寿命化及び機能回復手法の分類を、表7に示す。
表7 長寿命化及び機能回復手法の分類 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)(一部加筆修正)
区分 | 機能低下の状態 | 劣化損傷の主な現象 | 対応手法 |
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長寿命化 | 頭部コンクリートの損傷 | 亀裂、浮き、剥離、落下 遊離石灰、発錆、錆汁、湧水 表面の材質劣化 |
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頭部背面部材の損傷 | 亀裂、欠損、遊離石灰、浸水 土砂の混入、表面の材質劣化 |
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機能回復 | 頭部キャップの損傷 | 浮き、緩み、割れ、落下、発錆 湧水、表面の材質劣化 |
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防錆材の劣化・損傷 | 漏れ、色相変化、固化・軟化 |
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頭部定着部材の損傷 | 再緊張余長や定着具・支圧板の 発錆・ずれ |
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受圧構造物(連続板)の損傷 | 亀裂、浮き、鉄筋露出、発錆 錆汁、剥離、遊離石灰、湧水 表面の材質劣化 |
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受圧板(独立板)の損傷 (FRP、プラスチック等新素材製を除く) |
亀裂、浮き、割れ、鉄筋露出 発錆、錆汁、剥離、遊離石灰 湧水、表面の材質劣化 |
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緊張力の減少 |
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緊張力の増加 |
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テンドンの変状と緊張力の変動 |
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各手法の適用条件と工法概要については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。