製作:国際航業株式会社
地表の動態調査の手法としてGPS計測があります。
GPS計測は、GPS衛星の位置と、衛星からの電波が受信機に達するまでに要した時間で、衛星と受信機間の距離(時間Δt×電波速度(光速))を算出する方法で、「衛星を使った三角測量」といえます。GPS計測の方法は、大別すると単独測位と相対測位に分類され、相対測位は複数の受信機で4個以上のGPS衛星を同時に観測して受信機間の相対的な位置関係を計測する方法です。さらに、相対測位はDGPS(ディファレンシャルGPS)と干渉測位に分けられます。このうち干渉測位は、GPS測位の中で最も精度が良く、mm単位の計測も可能です。
ここでは、干渉測位によるGPS計測で斜面動態観測を行い、インターネットを介して24時間連続的に観測情報を提供する「リアルタイムGPS計測」の手法とシステムの構築例を紹介します。この手法には、以下の特徴があります。
斜面などの土木計測を行うために、従来の測量用GPSセンサーと比較して、小型・軽量・安価なGPSセンサーを採用しています。これは、設置が容易で壊れにくく、計測ノイズに強いセンサーです(写真-1)。
米国以外のGPS衛星(GLONASSや準天頂衛星など)への対応や、数10kmの長期線の解析を可能とする2周波解析に対応した新機種のセンサーの導入も進めています(写真-2)。
GPS計測は、電離層や大気等の影響による誤差を含むため、計測値は幅数mm~10数mmの帯状にバラつき、そのままではmm単位の斜面変位を検出するのは容易ではありません。そこで、トレンドモデルを用いた時系列統計処理を行い、計測値に含まれる誤差成分Wnと真の斜面変位Unを分離することでmm単位の変位計測が可能となります(図-4)。
また、電離層や大気等の影響による観測誤差については、気象データを用いた対流圏補正という補正を行うことにより観測精度を向上させることができます。
さらに、植生の被覆などによる上空視界の悪化にともなう観測誤差の発生については、観測条件の悪い視界範囲をマスク処理することにより観測精度を向上さることができます。
高知県吾川郡仁淀町の長者地すべりにおける計測事例です。GPS計測点は、長者地すべりのブロックに3基(G-1、G-2、G-4)、また、不動地盤と思われる対岸の露岩部に基準点K-1を設置しました(写真-3)。
GPS自動計測システムによる地表面移動量の計測は、2006年11月1日から開始しました。図の右側に時系列グラフを示していますが、上から順にNS(X)、EW(Y)、UD(Z)方向の変位量、水平変位量、3次元合成変位量、近傍のアメダス計測点の日雨量を示しています。台風通過時などの100mm/日を超えるような降雨時(台風4号)には急激な変位増加が認められます。これは、傾斜計の観測データとも一致しています。
また、図の左側にはGPSで計測された3次元変位量を平面図及び断面図上にベクトル表示しています。これらのGPSで計測された変位ベクトルは、すべり方向とほぼ一致していることが分かります。
さらに、G-2近傍に設置されている孔内傾斜計の変位量とG-2の変位量はほぼ一致しています。このようなことから、GPSによる地表面変位計測は地すべりの動態観測においても、実用的な計測手法であることが分かります。
松田浩朗,安立 寛,西村好恵,清水則一(2002):GPSによる斜面変位計測結果の平滑化処理法と変位計測予測手法の実用性の検証,土木学会論文集No.715/Ⅲ-60,pp.333-343.
土佐信一,伊藤克己,菅沼建,及川典生,武石朗,山崎考成(2013):GPSを用いた地すべり計測 -データの取得から活用まで-,地すべり学会誌 Vol.50, No.4,PP.18-25.