制作:日特建設(株)
アンカー工は、比較的小さい削孔に高強度の鋼材などの引張り材を挿入し、これを基盤内に定着させて、鋼材の引張り強さを利用することにより地すべり滑動力に対抗しようとする工法です。抑止杭や土留め壁と組み合わせて用いられる場合もあります。
グラウンドアンカーは、「アンカー体」、「引張り部」、「アンカー頭部」から構成されます。アンカー体は、アンカーの引張り力を地盤に直接伝達する部分で、グラウトの注入により造成されます。引張り部は、アンカー頭部からの引張り力をアンカー体に伝達する部分で、通常PC鋼棒、PC鋼より線、多重PC鋼より線、連続繊維補強材などを材料としたテンドンと、テンドンの防食と摩擦損失を防ぐ機能を持つシース等から構成されます。アンカー頭部は、テンドンの定着具と、これを支えて荷重をのり枠や独立受圧板などの構造物に伝達する支圧板から構成されます。
グラウンドアンカーは、支持方式、頭部定着方式、テンドンに用いられる材料などの組み合わせにより多数の商品が開発されており、地盤状況、経済性などを加味して選定が行われています。
グラウンドアンカーの抑止機能には以下の二つがあると考えられています。地すべり対策工としてのアンカーは、地盤・すべり状況により、どちらか一方の機能を重視して設計される場合があります。
アンカー力、配置・間隔、打設角度を決定し、定着地盤の強度やすべり深度をもとに、アンカー径、アンカー長、テンドン諸元を決定します。
グラウンドアンカー工は、施工の良否が直接その品質(アンカー耐力、耐久性)を大きく左右するため、十分な施工管理が必要です。
アンカーを挿入するφ90~φ165mmの孔をボーリングマシンで削孔します。削孔機には、ロータリー式削孔機、ロータリーパーカッション式削孔機、ロータリー式削孔機にダウンザホールハンマーを取り付けたパーカッション式で削孔する方法などがあり、地盤条件、施工条件に応じて選定します。
テンドンは現地で組み立てる場合と、工場加工の場合があります。いずれも、設計仕様で定められた機能を損なわないように、慎重な組み立て、保管、挿入作業が必要となります。テンドンやシース、防錆材などへの有害な油、土、ごみなどの付着、さびの有無、損傷や変形、熱などには十分注意が必要です。
アンカー体注入は、セメントミルクやモルタルなどを材料としたグラウトを、置換注入、加圧注入の順で行います。置換注入は、あらかじめテンドンに装備した注入ホースにより、アンカーを挿入した後行う場合と、テンドン挿入前に孔内をグラウトで充填しておく場合があります。また、加圧注入には、ケーシング加圧とパッカー加圧の二つの方法があります。孔内から湧水がある場合や、透水性が高くグラウトが逸出する場合は、十分なアンカー体が形成できない場合があるので注意が必要です。
緊張・定着は、グラウトが所定の強度に達した後、品質保証試験を行って施工が適切であったことを確認し、緊張用ジャッキを用いて行います 品質保証試験には、一定の割合のアンカーに対して実施する適正試験(多サイクル確認試験)と、全アンカーに対して行う確認試験(1サイクル確認試験)があります。
アンカー体を造成した後、自由長部の周囲やアンカー頭部周辺の空隙の充填を行い、防食機能を増強させます。頭部の保護は、ポリエチレンやアルミニウム製の保護キャップをかぶせ、内部に防錆油を充填させる方法が一般的ですが、環境条件(たとえば頭部が水没するなど)によってはさらにコンクリートやモルタルで被覆する場合があります。
アンカーの緊張力を有効に地盤に伝達するために設置される受圧構造物には、法枠、独立受圧板、擁壁などがあります。独立受圧板は、作成・設置方法(現場製作、プレキャスト製品)、材料(コンクリート、鋼製、ガラス繊維など)、形状(十字型、正方形)などが異なるさまざまな製品が開発されています。受圧板自体がアンカー緊張力に対して十分な強度を有している必要があるほか、地すべり地では受圧板背面の地盤強度が小さい場合があるので、十分な設置面積を確保する必要があります。