地すべり防止工事士とは
斜面防災の専門家です
地すべり防止工事士は、斜面災害から日本の美しい国土と、かけがえのない生命及び財産を守る役割を担うプロフェッショナルです。
国土固有の地形・地質・気象条件から誘発される地すべり等の斜面災害の予防と対策については、豊富な知識と経験をもった「地すべり防止工事士」の活躍が不可欠です。
地すべり防止工事士の資格を得るためには、一般社団法人斜面防災対策技術協会が実施する国土交通大臣「登録地すべり防止工事試験」に合格し、協会規程に定められた手続きによって協会に登録することが必要です。この資格は、地すべりの調査対策工事にたずさわる技術者が必要な知識や技術が最高レベルにあることを証明するものです。さらに加えて技術水準の向上に努め、斜面対策業の健全な発展に寄与することを約束するものです。
「地すべり防止工事士」は、建設業の経営事項審査において技術職員として評価され、経営事項審査における加点対象となっています。加えて、一定の条件を満たすことで監理技術者としても評価されるようになりました。これにより、地すべりの調査・設計及び防止工事に関して「地すべり防止工事士」の従事を義務づけたり、公募型の大規模地すべり対策工事についての監理技術者・主任技術者の資格要件を「地すべり防止工事士」に特定している発注機関もあります。
また、
- 平成27年1月に、国土交通省「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に関する技術者資格登録規程」に基づく「地すべり防止施設の点検・診断」に係る技術者資格に「地すべり防止工事士」が登録されました(登録番号第3号)。
- 建設業許可に係る専任技術者の要件や監理技術者資格取得要件に、「地すべり防止工事士」資格が活用されています。
- 専任技術者(「とび・土工工事業」「さく井工事業」)
建設業法第7条第2号ハ(別表②)
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- 監理技術者資格(「とび・土工工事業」「さく井工事業」)
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- 登録地すべり防止工事試験合格後1年以上の実務経験
- 2年以上の指導監督的実務経験
資格取得までの流れ
- 受験資格
- 「登録地すべり防止工事試験」の受験資格は、地すべり防止工事等に関する5年以上の実務経験を有する者。この実務経験年数には1年以上の指導監督的実務経験年数を必要とします。
- 過去の試験問題
- 毎年度発行の「斜面防災技術」に掲載しています。
※当協会会員は、本HPの「会員専用ページ」で過去問題を入手できます。
- 受験のすすめ
- 斜面防災対策技術協会では、受験者のために研修テキストを頒布しています。試験要領については、このHPのほか主要官庁及び会員にポスター等でお知らせしています。受験に関する詳細及び不明な点については、協会本部・支部までお問い合わせ下さい。
地すべり防止工事士の活用
「地すべり防止工事士」の適格性
- 緊急、迅速な対応
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- 地すべりが発生した、もしくは発生の危険性大の現場では、応急対策や計測を含めた迅速な判断と対応が要求される。このような場合、地すべりの現場経験が必要となるため「地すべり防止工事士」の果たす役割は大きい。
- 土質だけでなく湧水等の周辺事象の判断も迅速に行えるため、緊急性に対する対処がスムーズであり、安全管理に貢献できる。
- 豊富な経験から地すべりの機構を熟知しているため、地すべり活動を的確に捉える手法と、最も適切な監視・観測位置を迅速に判断できる。
- 排水ボーリングに際しては、地質的観点からだけでなく地すべりの機構を加味して、機械の選定や施工方法を的確に計画できる。
- 集水井の施工に際しては、すべり面を熟知していないと設計のみに依存した掘削を行ってしまう場合があり、集水井の深度管理を失敗する。「地すべり防止工事士」は掘削中にすべり面を判断することが出来るだけでなく、この資料を他の工事、例えば抑止工の設計に役立てることも出来る。
- 適切な調査計画
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- 「地すべり防止工事士」は、地すべりの基本を熟知しているため調査計画の適切な配置を立案することが可能であり、経済的な調査を遂行できる。
- 複雑な地質構造、例えば断層の存在が懸念される現場において、地すべりの知識を応用することにより、計器観測を取り入れて情報化施工を計画するなど、一貫した視点で調査計画を提案できる。地すべり防止対策に用いられる特殊な工法を熟知しているため、最も経済的な機材を選定できる他、機材の発注から現場納入まで考慮したスムーズな計画を立案できる。
- 適切な変更提案
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- 設計図書と現地の状況を地すべりという観点から再検討できる。このため、当初計画の内容と目的に沿った適切な処置が迅速になされ、工事の休止期間も短くて済む。
- 設計変更に際して、新たな設計や計算のやり直しも迅速に出来るため、スムーズな工事の進行が可能である。
- 安全かつ経済的な施工
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- 地すべり機構および特異性を把握しているので、発注者との打ち合わせ協議、現場施工中の観測体制および施工1頂序など、工事の進め方についても安全でムラのない運営が可能である。
- 一般工事業者では、設計書どおりの工事に専念しすぎ、安全面や経済性を考慮した設計変更を提案できない。「地すべり防止工事士」は、施工状況に応じた適切な処理が可能である。
- 道路工事での応用
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- 道路改良工事においても、斜面崩壊だけでなく地すべりに対して目を向けることにより、被害を未然に、かつ最小限に留めることができる。
- 道路改良工事に伴う切土工を地すべり地域で施工する場合、地すべりという観点からの補足調査で道路計画の変更が可能で、地すべりの誘発など、重大事故を未然に防ぐことが出来る。
「地すべり防止工事士」が活用されていれば未然に防止できたと思われる事例
- 地形の判読ミス
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- 地すべり地形を崖錐地形と誤認する例が多く、思わぬ重大事故を招くことがある。
- 宅地造成中に地すべりが発生。地形が乱れている地域にも関わらず、地すべり地形を読む知識が、設計者と施工者に不足していた。
- 地すべり地近傍での切土設計に際し、特異な地形状況にあったにも関わらず、また、調査の提案等を行わず設計を終了させたため、法面の崩壊事故を招いた。
- 図面上のみで特殊工事を設計し、また設計書どおりに施工した事から、斜面崩壊に至った。
- 道路改良切土斜面において、すべり面末端位置の判断が甘く、掘削作業中に切土面末端から地すべりが発生した。
- 地すべり機構の判断ミス
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- 地すべり防止工事施工中、変位の監視位置が不適切であったため、変状の早期発見が遅れた。
- 地すべり調査ボーリングにおいて、基盤岩を確認せずに契約深度で終了させることが多く、調査の目的を達することが出来なかった。
- 活動中の調査現場で、地すべりの挙動が予測できず避難が遅れ、重大な事故を招いた。
- すべり面を確認することなく、軟弱地盤解析と同様に円弧すべりによって安定解析を行っている。
- すべり面を地層の硬軟(N値)のみで決定し、その後の施工に支障を来たした。
- 施工管理上のトラブル
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- 集水井工事中、砂礫層中の地下水を「ポケット水」であるとの誤った判断をし、最終的にはボイリングを発生させ、工事の中断を招いた。調査報告書では、連続して広範囲に分布する砂礫層で地下水の流動が確認された地層であった。
- 工事排水を地下に浸透させてしまい、地すべり活動を助長した。
- 工事士抜きに横ボーリングを地下水面より上部に配置してしまい、延長も不揃いで目的の水位低下が見られなかった。工事士により、口元の下方修正と延長増を実施した結果、目的の水位低下が達成できた。
- 対策工の施工順を無視して末端排土を先行し、地すべりを発生させた。
- 構造物の床堀りを過度に行い、地すべりブロックを不安定化させた。
- 杭の根入れ不足による地すべりの再発と、深部へのすべり面転化が発生した。
- 杭またはアンカーの根入れ岩盤が不良であっても、設計長で止めてしまい抑止工の効果を損なった。
- 現場の地質が設計と異なったことに気付かずアンカーを設計どおりに施工したため、アンカーの所要耐力が得られず、追加調査を行って再施工した。
「地すべり防止工事士」の活用により効果があったと思われる事例
- 安全管理
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- 「地すべり防止工事士」が道路を横断する亀裂を発見、周囲との関連から進行性の地すべりと判断し、道路管理者に通報した。大型連休直前で他県からの観光客が見込まれていた。亀裂は拡大し大きな段差も出来たが、通行止め措置を取り、重大事故は回避出来た。
- 法面崩落の前兆を察知して、作業員を避難させた。
- 道路切土法面に吹き付け枠工施工中、枠工がすべり出した。人工的誘因として水路工により枠工下部を掘削したためと判断し、対策工を提案し安全に工事が完了できた。
- 集水井施工に際し山側を切土したところ、多量の湧水があり小崩壊が発生、上部に新たな亀裂が発生した。そのため、土留め矢板を施して警報器付き伸縮計を設置し、安全に注意しながら施工することが出来た。
- 活動中の地すべりでの集水井掘削工事において、作業の停止、再開の判断を適切に行い、スムーズな施工が出来た。
- 計画変更
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- 切土途中の安全度をチェックし、追加工事の協議を行って安全に工事を完了することができた。
- 集水井からの水抜き途中で、計画どおりでは排水が皆無と判断し変更協議を行った。変更施工の結果、十分な排水を確保し集水井の機能を効果的なものとした。
- 地元の要望場所に集水井掘削残土処理を予定していたが、予定場所が他の地すべりブロックの頭部であると判断、捨て場を変更して地すべりの誘発を防いだ。
- 見掛けは表層だけに見えた集中豪雨による斜面崩壊において、岩盤性の深い地すべりであると判断、対策計画を抜本的に変更した。
- トンネル坑口の土砂崩落の復旧工事で、単純に崩落土砂の排土が計画されていたが、背後に地すべりの存在を指摘し、押え盛土やグラウトエを追加提案し、工事を安全に施工することが出来た。
- 地元の要望により、集水井および排水ボーリングの位置の大幅変更が発生した。検討の結果、変更によっても抑制効果は変わらないことを説明して変更設計を行った。
- 既設水抜きボーリングの近傍で抑止杭施工を実施した際、大口径ボーリング中に既設孔から掘削泥水が湧出した。杭のグラウトで水抜きボーリング孔が閉塞された場合、杭に計算以上の負担がかかり、多大な支障を来たすことを予測し、発注者と事前に善後策を協議し工事を進めた。