林野庁所管        八幡地すべり

新潟県

位置図(地すべり地形分布図)       八幡地すべりDブロック全景

「斜面防災技術」掲載号:Vol.40,No.2(201311月,通巻119)

「斜面防災技術」掲載号(口絵写真)Vol.37,No.1(20107月,通巻109)

地すべりの概要

1.位置

妙高(旧新井)市街の南東約15km、長野県との県境に近い上平丸地区一帯は、県下でも有数の地すべり多発地として知られている。「八幡地すべり」はこの地すべり多発地帯の一角をなしている。地すべり防止区域は昭和37年に指定され、その面積は69.39haである。

2.地質概要

新第三系中新統富倉層の黒色泥岩を主体とし、灰色砂岩を互層状に介在している。泥岩は、含水・乾燥を繰り返すと容易にスレーキングによって細片・粘土状に砕けやすい特徴を有するため、地すべりが生じやすい素因を備えた岩質である。

八幡地区は、南北方向の軸をもつ富倉背斜の東翼に位置する。地すべり斜面は平丸川左岸の北向き斜面であり、地質構造との関係は、大局的には走向すべりとなっている。

3.地すべり状況

昭和45年に、人家1戸と県道が被災する大規模な災害あった。その他にも地すべりが多数発生しており、昭和11年以降、長年にわたり地すべり対策が講じられてきた。当地区では集水井工と杭工を主体とした対策工が採用されている。

平成224月に新たな地すべりが発生した(Dブロック)。その規模は幅150m、延長450mにおよび、地すべり移動体は上部・中部・下部の3ブロックで構成される。この地すべりは411日に最初の兆候が確認され、18日に大規模な活動へと発展した。大規模な地すべり活動では水平移動量が約30mにおよび、末端を流れる蛇香沢の谷止工を破壊した。

大規模な地すべり活動後、ただちに応急対策が行われたこともあり、中部・下部ブロックではその後の地すべり活動は発生していない。上部ブロックでは不安定傾向が続くとともに、背後斜面へと地すべり活動が拡大した。

平成22年度から25年度にかけて地すべり対策工が施工され、現在はすべてのブロックで地すべり活動は沈静化している。

4.地すべり機構

[素因]

・乾湿の繰り返しにより細片化・粘土状に砕けやすい泥岩の性質(スレーキング)

・褶曲運度により発達した亀裂が地層の脆弱化をもたらす。

・褶曲運動により発達した亀裂により裂か水として地中水が蓄えられやすい環境。

・地盤の透水性はあまり高くない。地表から浸透した地下水は流出に時間がかかるため融雪期には地下に大量の地下水が蓄えられ、その結果として大きな間隙水圧が生じる。

[誘因]

4月上旬の気温上昇により融雪が加速し、これにより多量の地下水が供給されて地下水の間隙水圧が上昇した。

・上部ブロックの活動によって生じた上載荷重の増加と背後からの押し出す圧力により、中部ブロックへと地すべり活動が伝播。同様にして中部ブロックから下部ブロックへと地すべり活動が伝播。

・上部ブロックでは中部ブロックの活動により受動土塊が大きく削剥され、不安定な状況が継続した。

 

5.対策工

【応急対策】

・異型ブロック設置 37(下流への土砂流出防止)

・ボーリング暗渠工 2群 ΣL=800m

・蛇香沢渓流水仮廻し L=200m

・末端腹付盛土工 V=1650m3 (谷止工倒壊防止)

【恒久対策】Dブロックの主要な地すべり対策工)

主ブロック・下部ブロック

・誘因は融雪に伴う地下水供給であるため、地下水排除工を優先対策工と位置づけ、集水井工を採用し、Fs=1.10を達成した。

・目標安全率pFs=1.15を満足するため、杭工を併用した。

上部ブロック

・中部ブロックの活動によって末端土塊が大きく削剥されたが影響していることから、アンカー工を採用した。

・融雪期に大量の地下水供給があることから、ボーリング暗渠工を併用した。

・アンカー工によりFs=1.10,これにボーリング暗渠工の効果を加え、Fs=1.15を達成した。

 

地すべりの特徴

平丸川流域地層・地質地すべり断面図

Dブロック平面図

(中部・下部ブロック)断面図

地すべり形成機構(推定)

Dブロックの主要な地すべり対策工