建設省所管              大野地すべり    徳島県



                    「地すべり技術」掲載号:vol.21 No.1(1994年7月、通巻61号)
<地すべり地の概要>

1.1)地すべりの経緯

 大野地区は徳島市の西方約45km,吉野川に流入する貞光川沿いに南に10kmさかのぼった,四国山地の南西斜面に位置する。大野地区は古くからの地すべり地であり,地すべり対策工事は地下水排除工を中心に実施されていた。昭和50〜51年の2ヶ年における台風による集中豪雨によって大被害が発生したため,本格的な地すべり対策事業を昭和51年度から開始した。
 地すべりは昭和51年9月8〜13日の17号台風時に日雨量約300mm,総雨量800mm以上の降雨があった。その折,地区の最上部標高820〜880mの位置に頭部滑落崖が生じ,斜面長1,000m,幅100〜200mの15haにおよぶ区域が被害を受けた。この移動によって,標高650〜700m問の集落で,斜面方向100mにわたって幅150mに及ぶ亀裂と地表面の陥没,住宅の半壊1戸,一部破損5戸と水路の閉塞・寸断などの損害が生じた。

2.地形・地質概要
 大野地区は,北東方の稜線(標高918m)を境に,山頂から下方の谷までの比高約540m,斜面長約1,100m,幅約600m,平均傾斜25°,集水面積はおよそ0.5km2の南西向き斜面である。付近の地形は,周辺部より一段低い谷地形を呈し,上方斜面は広いが,下方斜面が狭くなる逆扇状地形をなす。末端は,西側の岩壁的な凸部に阻まれて南に向きを変えている。また,地区内に斜面に平行に流下する2本の沢が東側と中央やや西側にあり,下方で一つの沢になり流下方向を南に変え,八面谷川に急落している。
 大野地区の地質は三波川無点紋帯に属し,基盤岩は泥質片岩を主体とし,地区の西側岩壁には石英片岩と塩基性片岩が露出している。地質構造は,東西性の走向をもち,南に傾斜し,斜面にとって「流れ盤」にあたる。基盤岩には,N60°E〜EW30°〜70°Sの多面片理や,EW性で高角度のシャープな微褶曲軸面壁開,そして南北性の節理などの亀裂が多く入っている。また,地区周辺にはNE50°の小断層も認められる。

3.地すべり発生機構
 地すべり地形は,凹状末端閉塞型地形に分類される。地すべりブロックはA〜Iの大小9ブロックに区分され,その中のAブロックが主動ブロックである。側部にはB〜Iの小ブロックが分布しており,それらのブロックは,Aブロックに引かれるように運動している。Aブロックの土塊の性状は,上部斜面では1〜数mの巨礫,中央部より下部では礫の風化が著しく,細片状となっており粘性土。
 移動層厚は上部は35m,中央部〜下部では20〜30m程度,最下部や周辺部では約10mである。すべり面は上部は風化岩内に存在し,中央部から下部にかけては崩積土と基盤岩との境界面をすべり面としている。
 地下水位は全域に浅く,比較的浅部の崩積土層中で幅広い流動面が認められている。また,下部付近は地下水位が高く湧水箇所が見られる。降雨との対応が明瞭で豪雨によって孔内水位は5〜25mと大きく上昇する。豪雨後に地下水位が急上昇すると,地すべりの滑動は頭部と下部付近の孔内傾斜計にシャープな変位が記録される。一方,地下水は標高700m付近の周辺地山から断層破砕帯を介して,地すべり地内へ供給され,崩積土層内の地下水の分布・流動が,地すべり運動の活発化に関与していると考えられている。

4.素因・誘因
 (1) 素因
  ・集水地形
  ・厚く堆積したルーズな崩積土
  ・流れ盤の地質構造
(2) 誘因
  ・集中豪雨など降雨による地下水位の急激な上昇

5.対策工事の概要
 地下水排除工 集水井工、ボーリング排水、水路工

地すべりの特徴
  (1)大野地すべりAブロック模式断面図
  (2)大野地すべり対策工事内訳表