建設省所管        中羽根地すべり    静岡県  

静岡県の地質


中羽根地すべり平面図

「地すべり技術」掲載号:Vol.25、No.1(1998年7月、通巻73号)
1.地すべりの概要
 中羽根地すべり防止区域は、静岡県周智郡春野町中心地より東北東約4.5kmの天竜川水系の熊切川左岸に位置する。古い地すべり活動については古文書等の記録資料は残されていず、地元の古老の話でも、「大規模な変動などは記憶にないが、家屋等は次第に変異が大きくなり、5〜10年毎に補修を繰り返していた」ということである。
 しかし、昭利43年以降台風を契機に地すべりが活性化した。
 昭和43年7月の台風に伴う集中豪雨によって、家屋の変状・道路・畑地の陥没・隆起、熊切川左岸の押し出しが発生。
 昭和44年6月19日に面積54.89haが家屋の土台・柱の傾斜や立木の倒伏、押し出しによる沢部の狭窄が発生。 昭和57年8月1〜3日の台風19号とその後の集中豪雨(連続雨量611.5mm)により、推定約5万m2の崩壊性地すべりが発生。この際、1次すべりは8月3日頃熊切川左岸・中羽根橋下流100〜250m間に発生し、その規模は幅約150m、斜面長約30m、推定土量約5千m2のブロック末端すべりである。2次すべりは、8月4日1次すべり発生箇所を中心にして幅約100〜120m、斜面長約200m、最大深さ約50mの規模で発生し、約5万m2の土砂が熊切川を約200mにわたって塞き止め、増水した濁流が一時ダムアップし自然決壊した。人家への被害は免れたが、山林・田畑が流失した。
 昭和62年5月13〜17日に245mmの降雨があり、昭和57年の地すべり発生箇所の属辺に亀裂が発生し、さらに5月22〜24日に241mmの降雨があり、亀裂は拡大傾向を示し、亀裂発生箇所も地すべり指定範囲のほぼ全域に拡がった。
 このため、昭和62年度に災害関連緊急地すべり対策事業に採択された。

2.地形・地質概要
 当地すべり防止区域は、熊切川の左岸部にあって、気田川合流点から7.2〜7.5km間の左岸側の西北西部に開いた斜面である。地すべり斜面は標高200m〜400m間の奥行き約650m、幅約450m、面積約55haである。
 地すべり地形の主部は幅約450mで、その脚部急斜面を主動部とする熊切川方向への動きにより、町道に沿う北〜北北東側の隣接急斜面では斜面方向に引きずられるように稜線近くまで亀裂が生じている。
 地すべり頭部では山に向かって右翼の南東側に滑落崖が残存するが、左翼の東側は失われている。熊切川の下流部に沿う隣接斜面には、高塚山頂点とする左岸一帯に広大な地すべり地形がある。特に谷田地区は、斜面には大小取り混ぜ多数の滑落崖と沼地、あるいは縞状の微起伏が航空写真で判断できる。

 当地区を構成している地質は四万十帯に属する中生代三倉層群で、地区周辺での走向はN30〜60°E、傾斜は40〜70°NWであり、地すべり方向に対し流れ盤となっている。
 主たる構成地質は砂岩・頁岩の互層であり、地すべり地内では頁岩優勢で層理面はかなり不明瞭である。
 すべり面深度は30〜50mで、すべり面の地質性状は礫混じり粘土〜粘土状を呈する強風化頁岩で、典型的な破砕帯地すべりである。通常基盤岩とされている中硬岩の下位に介在する層厚30cm程度の軟質粘土層内にもすべり面の存在が確認されている。
 すべり面の形態は、一つの測線に複数の滑落崖が見られ、15〜20度の傾斜角度を有する基底すべり面を共有してブロックの頭部〜末端部まで連続している。変動形態は後退型地すべり。

 地すべり地内の地下水は、亀裂水(裂か水)が豊富に認められる。地下水は地すべりブロックの頭部周辺に多く涵養され、ブロック末端部へと供給されている。地下水構造は大別して浅層(表層)水と深層水に区分され、主に地すべり活動に起因しているのは被圧された深層水である。この被圧水の影響により、地すべりブロック頭部〜中腹部にかけて湿地帯、沼地等が形成されている。

3.素因・誘因
(1) 素 因
 ・流れ盤構造の地質
 ・被圧された深層地下水
 ・強風化頁岩中の破砕帯
(2) 誘 因
 ・台風に伴う集中豪雨

4.地すべり対策工事
 抑制工 排水トンネルエ・集水井工・堰堤工・流路工・抑え盛土工
 抑止工 鋼管杭工・アンカー工
地すべりの特徴
  (1) B測線断面図