国土交通省所管       武木(たけぎ)地すべり 奈良県

     
武木地区地すべり防止区域位置図)

                    
「斜面防災技術」掲載号:Vol.35、No.12(2008年7月、通巻103号)

1.地すべりの概要
  武木地すべり防止区域は、奈良県南部の川上村地内にあり、紀ノ川水系吉野川の一支流である武木川沿いの右岸に位置している。当地域では昭和30年代に地すべり現象が顕著に認められ、49年に地すべり防止区域に指定された。地すべり防止区域は約22haの規模を有し、これまでの調査から、地すべり地は12ブロックに区分される。Iブロックは動態観測と地下水位観測を継続しながら、順次対策工を施工している。U〜Wブロックは、対策工が完了し、目標安全率を確保していることが確認されている。ブロックについては、現時点では地すべり活動が認められない。以下、現在対策中のIブロックについて述べる。

2.地形概要
 地すべり区域は長さ約660m、幅約300mの緩傾斜地(10〜20°)で、南南東に延びる地すべり地特有の舌状を呈しており、区域内には宅地や耕地が広く分布している。背後には30〜40°の急傾斜を有する山地が迫り、両側面・全面にも30〜40°の急傾斜面が形成されている。

3.地質概要
 武木地区の地盤は崩積土と基盤岩から構成され、基盤岩は中生界秩父累帯に属する川上層群の緑色岩類とチャートからなる。崩積土は基盤岩を構成する緑色岩類とチャートを多く含む粘土質砂礫からなる。崩積土の斜面末端部には直径数mに達する巨礫が多く含まれていることから、土石流堆積物と想定されている。

4.地すべり状況
 Iブロックの規模は、200m、ながさ500mであり、最大すべり面深度は約50mと非常に深い。TブロックはI-1〜I-4の4つの小ブロックに区分される。これは、基盤岩の不陸状況と地表の段差地形・変状状況と地表の段差地形・変状状況から判断している。
 孔内傾斜計観測の結果、地すべり変動量は対策工施工前は0.5mm/月程度であったが、対策工が進捗するにつれ、現在は概ね0.1mm/月未満にまで減少している。変動方向は主測線方向であり、これは基盤岩の傾斜方向に地すべりが規制されていることによると考えられる。変動量と降雨量との関係は、対策施工前には相関性が認められたが、げんざいでは相関性は認められず、一定のクリープ性変動を示している。

5.地すべり発生機構
Iブロックの地すべり発生機構は、以下のように考えられる。
@河川侵食による緩斜面の形成
武木川等の侵食により武木地区に緩傾斜面が形成された。標高445mと400mに基礎岩 の平坦面が分布していることから、少なくとも2回の侵食停滞期があった。
A大規模土石流による堆積
緩斜面の形成後、大規模土石流等の発生により基盤面は」埋め立てられた。大規模土石流による堆積は何回か発生し、現在武木地区の緩斜面を形成した。この時点では、東谷は大部分埋め立てられたものと推定される。
B侵食に起因する地すべりの発生
大規模土石流の堆積から、東谷や武木川に分布する土砂部に対して新たに侵食が始まる。末端の押さえが消滅したことで、崩積土全体が不安定となり、基盤岩形状に規制された全体地すべりが発生した。
C地すべり地内への地下水供給
砂防ダムの整備や基盤岩の露出から、侵食による末端不安定化の進行は現在規制されている。地すべり要因は、地形的に東谷からの谷水の供給や、地質構造的の地すべり頭部に分布する断層破砕帯から地すべり地ないへの地下水供給である。

6.地すべり対策工
 大規模ブロックであるTブロックは、計画安定率P.FS=1.10を目指し、抑制工(集水井工および横ボーリング工)を順次施工しているところである。抑制工は地下水位観測の結果から、水位が高い地点や基盤岩の沢部など、地下水が豊富と考えられる地点に配慮したため、施工の進捗により地下水位は低下し、地すべり活動が沈静化に向かっていることが確認されている。

地すべりの特徴
 武木地すべり全景
 武木地すべり平面図
 武木地すべり対策平面図
 武木地すべり対策工断面図(Iブロック)