国土交通省所管    鷲尾岳(わしおだけ)地すべり 長崎県 


位置図

                引用文献:大八木規夫(1982):鷲尾岳・平山,アーバンクボタNo.20潟Nボタ

地すべりの概要

1.地すべりの概要
 鷲尾岳地すべりは、長崎県佐世保市北北西3.5km、江迎川左岸に位置するいわゆる「北松型地すべり」であり、炭層に狭在する粘土層をすべり面とする、流れ盤の岩盤すべりである。
@発生
1950年春、この斜面を横切る山道に亀裂が入った。同年夏には、尾根近くに横に走る亀裂が入り、滑落崖が発達する。翌19513月には旧国鉄松浦線(現松浦鉄道)の線路が川の方へ押し曲げられた。1953年から1957年までの間に、地すべりの輪郭をなす亀裂群がほぼ繋がって変動域の全貌が明らかになった。移動方向はN5°〜10°Eで、移動量は1959年頃までは年間1m以上であったが、1960年頃から次第に減少し、1969年以降は年間10cm以下になった。
A規模
鷲尾岳地すべりは、上部では幅が狭く200m、下部では550mと広がり、奥行980mとやや狭長な平面形をもっている。滑落崖から末端までの全比高240m、平均傾斜は14°とやや中傾斜である。地すべり移動体の体積は12.5×1063に達し、そのほとんど全部が削剥域に残存している。
B被害
移動速度が遅いため人的被害はない。しかし、地すべり中部東側にあった民家2戸は、地盤に亀裂が入ったり不等移動により歪んだため移転した。旧国鉄では松浦線のこの地すべり区間約500mを除行区間とし、地すべり移動のたびに線路の補修調整を行わねばならなかった。 

2.地形・地質概要
  鷲尾岳地すべりの地質は、中新世柚木(ゆのき)上部とこれを不整合に覆う玄武岩類で構成されている。すべり面は、一部をのぞ
き柚木層の中のC37c炭層(へだもの層)に発達しており、地層面に平行である。すべり面の深さは上部で80m、中部で40m、下部で2010mと次第に浅くなる。すべり面の形は北へ凹状に弯曲しながら、斜面上部で15°、下部へ8°の傾斜をもって江迎川左岸に接近し、ここでC37c炭層から分離して北へ切り上る破砕帯となり、地表へ達する。
 鷲尾岳地すべりの構造は、変動前の地質構造と地形とをよく反映している。巨視的には北へ凹に弯曲した曲板状の流れ盤すべりであり、不動域の岩盤と連続的な左側(西側)下部を除き明瞭な輪郭構造を持っている。下部左側での不動域との連続性は、そこに地層面にほぼ垂直な軸をもつ回転性のすべりを表わしている。 

3.地すべり機構
 地質構造によるものや、採掘の影響で地層に微小な亀裂を多数発生させ、地層の滲透性が局部的に著しく増大すると、梅雨期や台風期の集中豪雨による降水・地下水は、容易に炭層に達し、モンモリロナイト質粘土を湿潤・膨潤させて剪断強度を著しく低下させ、すべり面付近における間隙水圧が上昇し、地すべり変動を繰り返すものと考えられる。

4.対策工
 主な対策工は、延長2,674mに達する排水隧道による移動域内外の地下水排除である。これによって、降雨直後から毎秒数10?に達する排水がなされ、地すべりの移動量も1969年以降は10p以下に減少した。
 平成2,4,11年には災害関連緊急地すべり対策事業を実施し、集水井工、深礎工、アンカー工、杭工等が施工された。これらの対策工の効果により、変動量は12mm/年程度に減少した。

地すべりの特徴
地すべり平面図(すべり面等高線と輪郭構造)
ブロックダイアグラム