国土交通省 所管       倉下(くらした)地すべり 長野県

                            位置図
                            「地すべり技術」掲載号:Vol.28,No.2(2001年11月,通巻83号)
1. 地すべりの概要
 倉下地すべりは幅800m、奥行き800m、頭部に幅40m、長さ150m、落差20mに達する陥没帯を形成する大規模な地すべりである(「地すべりブロック平面図」参照)。

2. 地形概要
 末端は姫川の支流の松川に接し、側部及び頭部を急崖に囲まれる。末端急崖上部は平均15°の緩斜面からなる地すべり地形を呈する。本地域の地すべりは、分布および活動年代からA〜Eの5ブロックに分けられる。

3. 地質概要
 本地域の周辺地質は、基盤に古生界二畳系の青海-蓮華帯の蛇紋岩と中生界ジュラ系の堆積岩である来馬層群が分布し、それらを新生界新第三系の大峰累層が不整合に覆う構造となっている。

4. 地すべり状況
 現在、最も活発に活動しているのはAブロックであり、その規模は幅300m・奥行き700m・最大層厚60mである。Aブロックの主な地すべり土塊は、大峰累層に介在する溶結凝灰岩層であることが明らかになっている(「地すべりブロック平面図」参照)。
5. 地すべり発生機構
 地すべり頭部の陥没帯地下には、溶結凝灰岩層直下の来馬層中に、自由地下水より水位頭差にして20〜30mも高い被圧地下水が確認された。これまでの調査から、自由地下水より高い水位頭を持つ被圧地下水は、地すべり頭部にのみ存在していることが明らかになっている(「被圧地下水分布図」参照)。
 地下水は、地すべり地の北東方向より、西サイドのF2断層を通り、頭部陥没帯の地下に供給される。この地下水の一部分はそのままF2断層に沿って流下するが、大部分は陥没帯地下に被圧地下水として貯留される。その後、透水性の高い溶結凝灰岩層に供給され、F1断層沿いを流下し、Aブロックの地すべり活動を助長しているものと想定される(「地下水流下想定図」参照)。
 また、地下水のみならず、Aブロック周辺斜面から表流水が供給されていることが考えられる。

6. 対策工
 倉下地すべりの対策工を計画した(「対策工平面図」参照)。

6.1 地下水排除工
 地すべり頭部に存在する高圧な被圧地下水がAブロックへ供給されるのを断つことが重要である。しかし、この被圧水は地下深部に存在し、かつ多量のものであることが予想されるため、集水井の連結による排水では、能力的に問題がある。より大きな地下水排除を期待して、排水トンネルによる方法が最も効果的であると考えた。トンネル内にはボーリング室を設け、集水ボーリングにより、Dブロック頭部に貯留される被圧地下水を排除する。トンネルの掘削方法としては、従来のライナープレートより覆工による緩みが少ない、NATM工法による掘削を選定した。これにより排水トンネル上部のペンション・別荘への影響を最小限に抑えることができるものと思われる。
 活発な活動が認められるAブロックの対策としては、Aブロックに流入する地下水を頭部でつかまえて、地すべり地外へ排除できる位置に集水井を計画した。 なお、これまでに応急対策工として、地すべり変状の著しいAブロック末端の松川護岸において、平成9年6月〜7月に建設省が8万m3、平成10年3月〜5月に長野県が1万m3の押え盛土工を実施している。
 これら対策工による、Aブロックの安全率は、初期安全率を0.98とすると、押え盛土により1.00、集水井工(水位低下-5.0m)により1.01、排水トンネル工(水位低下-8.0m)により1.03と算出される。

6.2 対策後の地すべり変動
 地下水排除工の施工に伴って、実際のAブロックの地すべり変動は、次のような変化を見せている(「Aブロック地表・地下水変動図」参照)。
  Aブロックに設置した伸縮計の例で見れば、地下水排除工施工前の変動には、融雪・梅雨による活動期、その他の時期の休止期を繰り返す傾向が認められたが、施工が開始されて以降、変位速度の鈍化が認められ始めている。この傾向は末端ほど明瞭で、サイド・頭部と斜面上方に向かうに従って、鈍化が現れるのが遅れている。
 地下変動にも地表面変動と同様に、H9-3号孔のGL-54.5m(溶結凝灰岩層と来馬層の地層境界)で認められていたせん断性の変位にも、施工開始からその累積速度に明らかな鈍化傾向が認められている。
 このような変位速度の変化は、地下水位の低下が認められ始めた時期とほぼ一致する。地下水排除工により、地すべり活動は終息化へ向かっていると考えられる。
地すべりの特徴
 地すべりブロック平面図
 被圧地下水分布図
 地下水流下想定図
 対策工平面図
 Aブロック地表・地下変動図