1. 斜面崩壊の概要
川西地区は栃木県那須烏山市川西地区に位置し,東向き斜面であり,南にJR烏山線が隣接する。斜面直下には3家屋が存在する。
平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震時に斜面長110 m,幅50 mの範囲が大きく滑動するとともに,崩壊土砂が下流に流出し,3軒の家屋が損壊し,2名の尊い人命が失われた。
震災の約半年後には,平成23年9月21日の台風15号に伴う記録的豪雨が発生しており,地すべり頭部の滑落崖が拡大崩壊を起こした。
なお,対象地近隣の国交省テレメータ(烏山)では連続雨量224 mm,時間最大雨量42mmが観測されている(図1)。
当初の地震により発生した崩壊に対しての対策工は,かく乱して不安定となった土塊を整形し,排土工を行う他,地下水位が高かったことから,浅層地下水対応の明暗渠工,深層地下水対応の地下水排除工(集水井工+集水ボーリング),などにより安定性を高めるとともに,アンカー工を併用して確実に抑止する対策計画とした。
しかし,豪雨に伴う崩壊が発生したことを受けて,排土工の増工や,地下水排除工の配置の変更,仮設水路工により地表部の湧水等の地下水を排除しながら施工を進める計画とした。
2.地質概要
対象斜面は砂礫層を主体とする第四系の川崎層群に覆われており,その下層に中新世中期に属する小塙層,大金層,田野倉層および入江野層の4層からなる荒川層群の堆積岩類が分布している。
基岩をなす凝灰岩とその上位に堆積する更新世段丘堆積物(砂礫層)の層界付近にN値が1
程度の軟弱層を狭在しており,この層にすべり面が形成されている。ボーリング調査の結果,基岩面は斜面に対し6〜8 ゚程度の緩い流れ盤をなしており,滑動しやすい地盤構造にあった。
背後尾根斜面の遷急線を滑落崖とする旧期の地すべり地形が認められる。今回発生した地すべりはこの旧期地すべり地形の末端付近の一部にあたることから,もともと旧期の崩壊土砂ないしは地すべり斜面であった可能性が高く,滑動しやすい状況にあったと考えられる。
地すべり斜面部における調査孔においては下位の凝灰岩と上位の砂礫層との層界付近に顕著な有圧地下水が検出された。また地すべり地内では,移動層全体に層流状の地下水流動が見られることから自由地下水的な挙動が推察される。
また地下水位は高く,地すべり冠頭部や左側壁部においては,地下水が湧水化しており,さらに地すべりの下部〜末端付近においては常に流水するほどの湧水が認められる状態であった。
地盤全体に地下水が豊富に賦存していたことにより,地震動により急激に間隙水圧が上昇し,著しく斜面の不安定化が進行したものと推察される。
3.素因・誘因
素因:地すべり地形,流れ盤構造、高い地下水位
誘因:地震動,台風に起因する集中豪雨
4.崩壊対策工事概要
排土工,アンカー工,集水井工,横ボーリング工
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