国土交通省所管        谷地(やち)地すべり 秋田県
 
<引用文献>
文献1「谷地地すべり記録集」秋田県土木部砂防課(1978年,9月)
文献2「谷地地すべり −調査とその対策−」秋田県土木部砂防課(1985年,8月)  −(第4回国際地すべり現地検討会−
文献3「(社)日本地すべり学会 第43回研究発表会及び現地見学会 現地見学会資料集」 (社)日本地すべり学会(2004年9月)
     現在、秋田県建設交通部河川砂防課
地すべりの概要
1.地すべりの概要
秋田県の南東部奥羽山脈近くに位置し、岩手県境にまたがる真昼山地の西縁にあたる。南から北へ流下する成瀬川の左岸に発生している。成瀬川左岸には延長10kmにおよぶ大地すべり地帯が形成されており、谷内地すべり地はそのほぼ中央部に位置する。防止区域の規模は東西約1,200m、南北約950mにおよぶ。

2.地形概要
成瀬川沿いの大地すべり地帯は、5〜20゜の緩斜面を形成している。谷地地すべり地はこの緩斜面の末端部(標高350〜600m)にあたり、成瀬川に面しており、末端の一部は成瀬川の対岸にまで達している。
谷地地すべり地では、北東-南西方向に延びる断層に規制された冠頭滑落崖が、約1,000mにわたり連続している。この滑落崖から成瀬川までの間は規則正しく配列した陥没、隆起地形が発達している。地すべり斜面内の渓流発達は乏しく、谷底の広い沢地形が認められるのみである。
 谷内地すべりの冠頭滑落崖の背後には、巨大な旧地すべりの緩斜面および冠頭滑落崖が広がっている。

3.地質概要
新第三系山内層の分布域にあたる。山内層は硬質頁岩を主体とし、凝灰岩の薄層を挟む。凝灰岩は水を含むと粘性が増し、石けん状になる特徴がある。地質構造は、成瀬川右岸を南北方向に延びる断層と、その引きずり褶曲で特徴付けられる。谷地地すべり地は、この断層と背斜構造の間にあり、層理面は南北走向で東に14〜18゜傾斜している。地すべりと地質構造の関係は流れ盤の関係にある。

4.地すべり状況
大正12年の融雪洪水により成瀬川の流路が大きく変化し、地すべり活動が活発化した。昭和22年には、台風や梅雨による集中豪雨で、その活動がさらに活発化した。そのため、昭和26年から昭和31年にかけて、成瀬川に砂防堰堤を構築し、渓岸の安定化が図られた。 昭和45年より地すべり対策の必要性が認識され、調査、工事が実施されている。
地すべり斜面は、冠頭部を北東-南西方向に延びる断層に規制され、末端は成瀬川に達している。地すべり斜面の延長は1300m、幅950mにおよぶ。その中にA〜Dの4ブロックと小さなサブブロックが区分される。いずれのブロックにおいても、地すべり活動はたびたび繰り返されている。近年では、平成元年にCブロックの一部で顕著な活動があった。

5.地すべり発生機構
■素因:軟弱な凝灰岩や、褶曲運動に伴う層理面すべりで生じた粘土が流れ盤の地質構造をなしている。また最大積雪深5mに達する豪雪地帯であり、融雪期にはこれらが地下水となり地すべり斜面に供給されている。
■誘因:広大な背後斜面からの融雪水の供給による、間隙水圧の上昇が誘因である。背後斜面からの融雪水は、防止区域西端にある大柳沼に蓄えられ、大柳沼を涵養源として、大量の地下水が供給されている(谷地地すべり地のタンクモデル参照)。また、成瀬川の浸食による受動土塊の減少も地すべりを不安定化させている。

6.地すべり対策工事
抜本的な対策工事は昭和47年より行われている。その目的は、地下水供給源から流入する地下水を排除することと、地すべり斜面内に賦存する地下水を排除することである。対策工事は排水トンネル工、集水井工が採用されている。また、成瀬川の浸食による影響を防ぐための対策工も実施されている。
長年にわたり対策工事が進められてきたが、現在のところ地すべり停止には至っていないため、追加対策も検討されている。

 
地すべりの特徴
  谷地地すべり平面図
  谷地地すべり代表地質断面図
  パネルダイヤグラム
  地質図・地質断面図
  谷地地すべり地のタンクモデル