X線回折分析
制作:日本工営(株)
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地すべり調査におけるX線回折(XRD:X-Ray Diffractionのことで以下こう呼ぶ)分析の目的は、地すべり粘土中に含まれる鉱物の同定と、鉱物の生成を明らかにすることにある。特に再滑動性の地すべりでは,すべり面のせん断強度の評価のため,地すべり粘土を対象に土質試験を実施し,残留強度を計測する場合がある。その試験値は,対象とする試料の粒度構成や含まれる粘土鉱物の種類にも大きく影響を受けることから,当分析は,試験結果の評価を含め,安定解析に用いる強度パラメータを設定する上でも重要である。また、将来的には逆解析として、地層中に認められる粘土鉱物を分析して、とくに膨潤性粘土のスメクタイトや緑泥石の分布、連続性、含有量を調べて、すべり面の判定に用いたり、また、切土等を行ったときに地すべりが生じるであろう範囲(深度)を推定(予知・予測)したりすることも可能と考える。 それでは、XRD分析の手順と、実際の現場でどう役立てているかについて以下の1〜6の項目で解説する。 1.肉眼観察と試料採取 2.試料の前処理 3.XRDの原理・装置・試料調整 4.回折図形からの情報 5.XRDによる地すべり粘土の鉱物同定事例 6.XRDによる地すべり粘土の解析事例 1.<肉眼観察と試料採取> 1)肉眼観察 XRD分析用の試料を持ち帰って微粉にしてしまえば外観は大差がなくなるため、地すべり粘土の試料に限らず、野外調査で試料を採取するにあたっては、産状の観察とともに採取した状態での肉眼観察が大切である。 肉眼観察での留意点であるが、硬度、触感、色、光沢等は、主成分鉱物の特徴を反映している場合が多い。第三紀層地すべりの地すべり粘土によく認められるスメクタイトあるいは、スメクタイト質の混合層鉱物を主成分とする粘土の場合は、水を滴下すると吸水膨張したり,たちまち泥状になるものもある。破砕帯地すべりの地すべり粘土によく認められる緑泥石は鱗片状の粗粒試料を含んでおり、やや硬くて絹糸光沢があればセリサイトを含んでいる可能性がある。また、色も重要であり、一般に有機物が含まれていれば褐色〜黒色を示し、スメクタイトの中でもモンモリロナイトが含まれていると淡灰色〜淡黄色の色調を示すことが多い。 次に、シャフト工や集水井工の中に入って、あるいはボーリングコアから地すべり粘土の試料を肉眼観察する場合の留意点について示しておく。 地すべり粘土はマトリックスが粘土であるが、中に直径2〜10mm程の亜円礫を多く含んだ粘土(礫混り粘土)であることが多く、処々で鏡肌が認められる粘土である。地すべり粘土の厚さも、数cm〜数10cm程度あり、場合によってはそれ以上の厚さのこともある。したがって、その産状を観察した上で、どの部分の試料を採取すべきかを判断し、仮に、厚さがある地すべり粘土のうち、触感や見た目の色調等により区分できる場合はもちろんのこと、そうでなくても地すべり粘土の産状が礫混り粘土と粘土に分かれる場合は、それぞれについて観察し、試料採取の準備をすべきである。透水性等の違い(地下水との影響度の違い)を反映してか、地すべり粘土の産状の違いによって、その中に含まれる鉱物が異なっている場合が多い。明瞭な主変位せん断面を確認できる場合は,すべり面粘土として区別し,厳密にすべり面付近から試料を採取し分析することも重要である。 2)試料採取 1.肉眼観察と試料採取 2.試料の前処理 3.XRDの原理・装置・試料調整 4.回折図形からの情報 5.XRDによる地すべり粘土の鉱物同定事例 6.XRDによる地すべり粘土の解析事例 1.<肉眼観察と試料採取> 1)肉眼観察 XRD分析用の試料を持ち帰って微粉にしてしまえば外観は大差がなくなるため、地すべり粘土の試料に限らず、野外調査で試料を採取するにあたっては、産状の観察とともに採取した状態での肉眼観察が大切である。 肉眼観察での留意点であるが、硬度、触感、色、光沢等は、主成分鉱物の特徴を反映している場合が多い。第三紀層地すべりの地すべり粘土によく認められるスメクタイトあるいは、スメクタイト質の混合層鉱物を主成分とする粘土の場合は、水を滴下すると吸水膨張したり,たちまち泥状になるものもある。破砕帯地すべりの地すべり粘土によく認められる緑泥石は鱗片状の粗粒試料を含んでおり、やや硬くて絹糸光沢があればセリサイトを含んでいる可能性がある。また、色も重要であり、一般に有機物が含まれていれば褐色〜黒色を示し、スメクタイトの中でもモンモリロナイトが含まれていると淡灰色〜淡黄色の色調を示すことが多い。 次に、シャフト工や集水井工の中に入って、あるいはボーリングコアから地すべり粘土の試料を肉眼観察する場合の留意点について示しておく。 地すべり粘土はマトリックスが粘土であるが、中に直径2〜10mm程の亜円礫を多く含んだ粘土(礫混り粘土)であることが多く、処々で鏡肌が認められる粘土である。地すべり粘土の厚さも、数cm〜数10cm程度あり、場合によってはそれ以上の厚さのこともある。したがって、その産状を観察した上で、どの部分の試料を採取すべきかを判断し、仮に、厚さがある地すべり粘土のうち、触感や見た目の色調等により区分できる場合はもちろんのこと、そうでなくても地すべり粘土の産状が礫混り粘土と粘土に分かれる場合は、それぞれについて観察し、試料採取の準備をすべきである。透水性等の違い(地下水との影響度の違い)を反映してか、地すべり粘土の産状の違いによって、その中に含まれる鉱物が異なっている場合が多い。明瞭な主変位せん断面を確認できる場合は,すべり面粘土として区別し,厳密にすべり面付近から試料を採取し分析することも重要である。 2)試料採取 露頭やボーリングコアより、少なくとも30〜100gの試料を採取する必要がある。地すべり粘土の試料を分析する場合、マトリックスが粘土分であっても、中に、粗粒部が集まっている場合もあり、肉眼観察で判断した試料採取位置から各々握りこぶし程度の試料が必要である。また、新聞紙等で保管すると乾燥し、鉱物によっては(例えばハロイサイト)もとの状態に戻りにくい場合もあり、試料採取と保管にあたってはビニール袋等に密閉しておく必要がある。 2.<試料の前処理> 1)粉砕 地すべり粘土の試料は、ステンレス鋼製乳鉢を用い、次にメノウ乳鉢で磨砕する。試料が少量であれば最初からメノウ乳鉢ですりつぶし細粒化させる。 2)フルイ分け 細粒化された試料を105μmメッシュのフルイに入れ全量通過した粘土分10gを分析試料とする。なお、地すべり粘土の場合、マトリックスに含まれている礫の部分はすべりせん断による摩擦により徐々に角がとれ円礫化して、また礫も小さくなっていく。したがって地すべり粘土の特性は、粘土分の他、その中に含まれる砂分や礫分の試料にも表われる。そのため、それら砂分や礫分の試料も分析試料として採取しておくとよい。 3)分析前状態 フルイ分けした分析試料約10gを粉末の飛散に注意しながらスチロールビン等に入れ、デシケータ中で少なくても2〜3日放置する。 3.<XRDの原理・装置・試料調整> 1)原理 X線は、真空中で電子を加速し、ターゲットに衝突させることによって発生する。発生したX線を、物質(試料)に照射(入射)させると、(a)散乱X線、(b)蛍光X線、(c)透過X線になる。XRD分析は(a)の散乱X線を利用している(以後、散乱X線をX線と呼ぶ)。なお、(b)の蛍光X線は元素の分析に、(c)の透過X線は医療機器に用いられている。 XRDで用いるX線(一般的にCuKα線のX線が用いられ、その場合の波長(α)はα=1.5418Åである)は、その波長が原子やイオンの大きさと同程度であるため、結晶によって回折する。図・1にBraggの反射条件図を示した。面間隔dの結晶構造に波長λのX線がその結晶構造と角度θをなして入射されるとき、散乱角が入射角に等しければ、各散乱波の位相はそろっており、波は干渉し互いに強め合う。図・1の格子面TとUからの反射X線の位相がそろうのは、図中のAB+BC、すなわち2dsinθが波長の整数倍になるときであり、Braggの条件(2dsinθ=nλ)が満たされるときである。X線は結晶により特定の方向に回折されるため、それにより間接的にd値を求めることが出来、結晶構造の情報を得ることができる。 2)装置 測定の方法や目的に応じて様々なXRD装置があるが、カウンタによる自動記録方式を用いるX線回析装置のことをディフラクトメータといい、これが広く利用されている。ディフラクトメータは試料の表面と入射X線のなす角度(θ)に対して、カウンタが2θの角度を保つように回転する。 ディフラクトメータは主に次の4つの装置から構成されている。 i)X線発生装置…高電圧電源と制御回路からなる装置 ii)ゴニオメータ…試料をセットし、回折角度を測定する装置いわゆる本体である。 iii)計数記録装置…クロマトグラフィーを記録する装置。 iv)制御演算装置…ゴニオメータを制御する装置(コンピュータ) 3)試料調整 定性分析では粒径が44μm(350メッシュ)以下、定量分析では10μm程度まで粉砕することが望ましい。10μmの粒径は試料を指の間ですり合わせて粒を感じない程度である。それよりも粒が粗い場合は、回折強度の再現性がなくなってしまう。よって、その場合は乳鉢や自動粉砕機などを用いて粉砕することが望ましい。 全ての試料板には測定面と一致する基準面が設定されており、他の面と比べて高い精度で加工されている。従って正確な測定を行うためには、試料の測定面とこの基準面が一致するように試料調整することが重要である。 粘土鉱物の大部分は層状珪酸塩であり、層面に垂直な方向の構造的性質によって大別することができる。この相違はX線の底面反射によく反映されるため、底面反射が強く記録される定方位法によって調べることができる。定方位法を行うための簡易的な試料作成方法としては,やや濃い目の粘土懸濁液の少量(5〜10mgの粘土を含むもの)をスライドガラス上に10mm×20mmよりやや広い範囲に拡げて水平に静置し自然乾燥させて得る方法がある。厳密な方法としては,5.の事例に示した水簸処理を実施し,2μm以下粒径試料で分析する方法がとられる。 |
4.<回折図形からの情報> 定方位試料をディフラクトメータにかけると、図・2のような底面反射が強調された回折図形が得られる。用いたX線がCuKα線であれば低角度部分の2θが5°から13°の間、d値でいえば15Åから7Åの反射は、各粘土鉱物の底面間隔に対応した特徴的な反射であり、この範囲の回折図形の情報が最も大切である。図・2から、地すべり粘土の考察においてどのような情報が得られるかを下記に示した。 1)定性分析:物質の結晶構造や化合形態が異なれば回折図形が変化する。従って、既存のデータと比較して、物質の同定(定性分析)を行うことができる。XRD法では同じ組成の化合物の多形、例えば、石英、トリジマイト、クリストバライト、シリカガラス(化学式は全てSiO2)を区別できる。 2)定量分析:不定方位法により,回折強度を測定(ピークの高さを測るのが簡単であるがピークの面積(または高さと半価幅との積)で求める方が精度が高い)して各成分の定量分析を行うことができる。ただし、成分が微量である場合は、正確な定量値を得ることが難しく,結晶度や吸収係数,試料の装填状態の違いなどの問題により,必ずしも回折強度が含有量を反映しない場合もある。できれば,試料装填等の影響を補正するために,既知量の標準物質を添加して分析することが望ましい。 3)結晶度:非晶質の回折図形はブロードなピーク(ハロー)となる。結晶成分と非晶成分の積分強度比から結晶度を求めることができる。 4)残留応力:結晶の内部に存在する歪み(残留応力)を測定することができるが、地すべり粘土で調べられた事例はない。参考のために記述すると、金属など短い原子間距離をもつ物質の場合はX線の照射により構造が変化しその影響が回折図形に現れ,それを残留応力と考える。きわめて小さなスケールであるが,XRD分析は非破壊で残留応力を測定することができる唯一の手法である。 以上、X線ディフラクトメータは、取り扱いが容易であり、かつ、結晶学やX線回折の知識が十分でなくても、地すべり粘土の鉱物の同定が行える装置である。そのため、XRD分析は地すべりの機構解析を行う上で役立つものと考える |
5.<XRDによる地すべり粘土の鉱物同定事例> 当事例は、深度30m程のボーリングコアから採取した地すべり粘土(マトリックスは粘土で中にφ5〜10mm程の亜角礫含み、一部で鏡肌が認められる粘土)のXRD分析結果である。 フルイと水簸によりバルク試料を砂・礫と粘土に分離し、砂分についてはHCl処理を、粘土分については、エチレングリコール処理や加熱処理を行い高度な情報で地すべり粘土中の鉱物を同定したものを示した。 1)XRDによるバルク試料(無処理の全体試料)の鉱物同定 現場にて採取した試料をそのまま分析すると、石英、イライト、カオリナイトが同定。試料はきわめて粘性が高く粘土分が多い。そのため、バルク試料であるにもかかわらずイライトやカオリナイトが同定された。 2)105μmメッシュのフルイと水簸によりバルク試料を砂・礫と粘土に分離 地すべり粘土の場合、鉱物粒子だけでなく砂礫サイズの岩片が入っているため、この作業は結構大変である。図・3の下のスケールが1cmである。 なお、水簸とは試料から水を使って混じっている粗粒部分を除き粘土分を集める意味である。具体的には、室温20℃条件で蒸留水中に試料を入れて懸濁させたものを8時間放置後、水面から10cmの上澄みをとり遠心分離機で沈降したもので、2μm以下の粒子になる。 3)XRDによる砂分の一次鉱物同定 フルイにより砂分を集めると長石等の鉱物が確実に同定される。アノーサイト、アルバイトに加えて、29.5度にカルサイトと思われるピークが認められた。 4)1M−HCl滴下後のXRDによる砂分の一次鉱物同定 1M−HClを砂分に滴下することにより、砂分に炭酸塩が存在すれば発泡して溶解する。その結果、発泡したため、次に蒸留水により2回洗浄し滴下したHClを洗い流し、その後2回遠心分離操作処理を行い、再度XRDにより鉱物同定を行った。29.5度のピークが消失したため、砂分中にカルサイトの含有が認められたことになる。 5)XRDによる粘土分の定方位結果 水簸により粘土分を集め、ペースト状になった粘土を2枚のスライドガラスの間に挟み作成した試料板で得られた定方位結果。ピークが14Å(6°)、10Å(8.8°)、7Å(12°)とも明瞭に認められた。(図・4) 6)エチレングリコール処理後のXRDによる粘土分の定方位結果 図中(図・5)に矢印したところがエチレングリコール処理により14Å鉱物の一部が膨張した部分。微量であるがスメクタイトが認められた。 7)加熱処理後のXRDによる粘土分の定方位結果 図中(図・6)に示したマッフル炉(加熱炉)の温度は、150℃〜600℃程度で、図中の055は500〜550℃、060は550℃〜600℃程度である。 最近の熱分析は試料の変化に合わせて昇温条件を自動に変えることができ、より高度な情報を得ることができるようになった。 |
6.<XRDによる地すべり粘土の解析事例> 当事例は、第三紀地すべりの地すべり粘土のスメクタイト含有量変化をXRD分析により調べて、スメクタイトが出来る素因と誘因について考察したものである。いずれもボーリングコアから採取した地すべり粘土である。 その結果、地すべり粘土のスメクタイトの素因は凝灰岩(多分、おもに凝灰岩中の沸石類)であり、誘因は地下水の影響と考えられた。 1)図・7よりスメクタイトと斜プチロル沸石との間には負の相関性があり、地すべり粘土にはスメクタイトの含有量がかなり多くなっていることがわかる。 2)図・8は地すべり粘土中に認められる凝灰岩の亜角礫、泥岩の亜角礫およびマトリックスの各試料について、XRD分析した結果である。地すべり粘土中の凝灰岩の亜角礫とマトリックスは、方沸石の存否を除いて非常によく似ているのがわかる。 3)図・9は地すべり地頭部から末端部までの地すべり粘土をXRD分析したものである。DLは地表からの深度、ELは標高である。すべり面は、強風化凝灰岩の下面(硬質泥岩上面)に形成されている。地すべり粘土は、硬質泥岩(不透水層)上面に位置しているため、標高の高い方から低い方へ、すなわち地下水流下方向に向うにつれてスメクタイトの含有量が多くなっているのがわかる。 |
以上 |