地表水調査
制作:大成基礎調査設計(株)
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1.地表水調査の意義 地すべり調査で地表水とは渓流水だけ でなく、湧水・池や沼・湿地帯やこれら から流出する水も対象としている。下図 の例は、地すべり頭部滑落崖の直下に池 や湿地が直線的に配列されたものである。 これは、地すべり頭部の沈下傾向を反映 している。 |
これら地表水の有無や分布及び量を調査することは、地すべりブロック内の水循環過程を把握するばかりでなく、地表水排除工や地下水排除工を立案する際の資料となる。
2.地表水の分布及び流下経路 地すべりブロック内外の地表水の分布は、地表踏査で把握する。そして、それらの流下経路を明らかにして、地表水が地すべりブロックに浸透し地すべり誘因となりうる場合は、対策工事立案の際に重要な資料となる。 地すべり移動が活発な場合は、地表水の流下経路や湧水の位置が変化することがあるので、移動が活発化した場合はこれらの変化を把握しておく必要がある。また、季節による変化がある場合も同様である。 3.湧水調査 湧水とは、地下水が地表に湧出したものである。よって、湧水が存在することは、その付近の地下水位が高いことを示唆している。地すべりブロック内では、図-1のように頭部に湧水が存在し、池や湿地をなしていることがある。また、末端部でも湧水が見られることがあるが、湧水の量は頭部のほうが大きい傾向がある。 湧水がある場合は、その位置と湧出している水量を把握する。水量を観測できる場合は、できる限り年間を通して観測し、湧出量と降雨量との関係や、季節的な変化を把握する。また、渓流水等の流量も観測可能であれば、把握しておくことが望ましい。 4.水質調査 水質調査は、地すべり地内外に分布する地表水及び地下水を採水してその成分を分析定量し、成分比によって地表水・地下水の分類や流下経路の推定を行うものである。採水は、湧水、渓流水、井戸、池、ボーリング孔等から、一箇所当たり1000ml程度採取する。 地下水は、地下における滞留時間が長いほど水質が変化して、周囲の岩石とイオンを交換し、各種の成分を溶かし込む。よって、雨水が地下浸透の後、比較的短時間に地表に現れる浅層地下水は、その水質が雨水のそれに近く、溶存成分は少ない傾向にある。 採水されたサンプルは、水温及びpHを測定した後、一般にアルカリ度または重炭酸イオン(HCO3−)、Cl、SO4、SiO2、Ca、Mg、Na、K、NH4について定量分析される。分析は、国土調査法水質調査作業規定準則に従って行う。 分析結果は、水質分布を簡便に表示するため、以下のようにKeydiagram、Hexadiagramなどのグラフにまとめる。 Keydiagramは水質組成を読み取るための最も一般的な方法である。 |
Keydiagramでは水質組成は明らかになるが、溶存成分の量的関係は不明である。そこで、質ならびに量的関係を表示しうるのが、下図のHexadiagramである。 |
このように、Keydiagramによって分析対象とする地表水・地下水の水質組成が判明し、さらにHexadiagramによって溶存成分の消長や成分多角形として同一図形の追跡が行えるので、水質による地表水・地下水分布の検討が可能となる。
5.水収支調査 地すべり調査における水収支調査は、地すべり地に供給される地表水・地下水の量と蒸発散量及び地すべり地からの流出量を把握することによって、地すべり地内に地下水として滞留する量を推定する目的で実施される。 地すべり地における水収支の概念図を下に示す。 |
地すべり地の水収支は、まず降雨との関連で考えると、降雨量から蒸発散量を除き
さらに流出量を差し引いた量が地すべり地に浸透する量である。これを明らかにするためには、降雨量の観測(できる限り地すべり地内に観測点を設ける)、流出量の把握が必要である。流出量は、地表の被覆状況によって異なるので、土地利用状況の調査が重要である。蒸発散量は、測定器により計測する方法と気温から経験的に推定する方法がある。
次に、地すべり地に流入する渓流等がある場合、この流量から地すべり地外に流れ去る量を差し引いたものが地すべり地に浸透する量である。これには、前述の渓流等の流量観測を行う。 さらに、地すべり地に地下水として流入・流出するものがある。この量の把握は難しいが、帯水層の層厚やその連続性、地下水位、地下水流速(地下水追跡調査等で求める)に基づいて推定することが可能である。 このようにして地すべり地の水収支を把握し、地すべり地内に浸透して地すべり誘因となる地下水量の概略を推定すると、地すべり機構の解明や対策工事を立案する際の資料とすることができる。 出典:図-1〜4 「地すべり調査と解析」 藤原明敏 理工図書 |