多 層 移 動 量 計
制作:(株)日さく

1.原理

多層移動量計は、地中の各深度に固定したワイヤーを地上に誘導し、ワイヤーの伸び量を直接測定することにより、地すべり土塊の挙動を調べます。地すべりによって土塊が移動した場合、地すべり面以深に固定したワイヤーは、地中に引き込まれ、地上の測定台のワイヤーが見かけ上伸張したようにみえます。この伸張量をすべり面における移動量とみなし、伸張部と非伸張部の間にすべり面が決定します。


2.性能

a) 多層移動量計は、移動量が大きな地すべりの移動観測に適しており、連続して10m前後の移動状態を、長期間にわたって測定することができます。
b) 逆に、微小なすべり面変位の測定には適しておらず、ひずみゲージを併設しておくと微小な変動も測定できます。
c) 深度25〜40mまでは一般的な測定範囲で、深度100mまでの実績があります。
d) 0.5〜2mの範囲で測定点間隔を選定できますが、標準的に1m間隔とします。

3.構 造

 1)地下部の構造
・ 地下部は下端に誘導円盤が固定された長さ1mのVP40塩化ビニールパイプの連続体となっています。
・ 測定用のワイヤーは所定の深度にクリップにより固定され、上位のパイプに設置されている誘導円盤をとおして地上に導かれています。
・ ワイヤーは径1mmのステンレス製で錆に強く、十分な強度を有するものです。パイプはワイヤー25本まではVP40、それ以上40本まではVU50を用いています。パイプの長さは、標準的には1mです。各パイプの接続は、3枚の固定金具でビス止めします。
・ 円盤は黄銅製で、内ソケットと押さえのパイプで固定されています。
・ パイプの先端(孔底)には、抜上がり防止と固定用のアンカー体が取付けられています。
・ 地上の孔口には誘導キャップがあり、各ワイヤーの固定深度を示す数字が付されています。

 2)地上部

・ 地上部は650×550×1100mmの鋼製箱型で、測定台と架台から構成されています。
・ 上部の測定台には測定用のステンレス製スケールが配置され、その両側にワイヤーと導くためのプーリーが設置されています。
・ 地下から誘導されたワイヤーは所定のプーリーを通り、再び地上部下半部(架台)に導かれ、そこで錘またはバネにより緊張しています。余分なワイヤーは地上部内にあるドラムに巻き取られます。
・ ステンレススケール上のワイヤーには測定用のクリップを設置し、その位置でワイヤーの伸張量を測定します。

 3)自動観測装置
・ ワイヤー巻き取り部にポテンショメーターを設置することにより、移動量の自動観測が可能になります。
・ ポテンショメーターは電圧出力ですので、電圧型の自動記録装置を用いることにより、現地での長期間自動観測が可能となります。
・ また、現地での記録を無線で転送し、監視局で集中管理をすることも可能となります。

4.観測

測定は、測定部の各ワイヤーに固定されたクリップの移動量を直接読取ります。測定値は地表面から深度までの各測定間のワイヤー区間移動量の深度累積量を示します。したがって、計測器が正常に設置されていれば、特殊な場合(沈降現象など)を除いて、各測定間の区間移動量は正の値となります。一般的な地すべり地の計測によると、各測定間の区間移動量は、時間とともに累積的に大きくなります。
5.解析

多層移動量計は、パイプひずみ計や孔内傾斜計などのように、各深度の変位量、および孔底からの地表面までの累積変位量を求めることができます。
データは、パイプひずみ計や孔内傾斜計などのように経日変化図として、降水量などともに図示します。下図の上半部は深度累積量を描いたものであり、パイプの屈曲状況を示します。下半部は、同じく区間伸量を任意の深度(ここではすべり面の11m)における移動量の変化として、降水量と併記して図化してあります。
参考文献
  ・ (社)斜面防災対策技術協会(1996):地すべり観測便覧,P168,177