自然環境(森林・植生)調査
制作:日本工営(株)
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1.森林・植生調査の基本
山地災害の対策検討を効率的に行うためには、荒廃に影響を与えている自然条件と、保全対象などの社会経済条件等についての調査が不可欠です。調査項目や手法は、計画・設計の段階や計画内容によって異なりますが、いずれの場合でも、目的を明確にし、これに合致した適切な調査が求められます。一般的な調査項目は図−1のとおりですが、地形・地質調査に並行し「森林・植生調査」を行うことで、山地の荒廃状況をより明瞭に把握することができます。調査地でみられる植生は、長い年月をかけ、その地の気候・地形・地質に応じて成立したため、調査地の特性や荒廃の原因を特定するための格好の手掛かりとなるのです。森林・植生調査を行う際の、一般的な要点は図−2に示すとおりです。(詳しくは、【砂防学講座 第7巻-2 土砂災害対策】第3章 山地災害対策の項を参照)
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森林・植生調査の代表的な手法を表−1に示します。調査は目的に応じ、以下の手法の中から選択または組み合わせて実施します。(詳しくは、【森林立地調査法】第U章 植物の項を参照) |
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2.現地調査での着眼点
山地では、地形・地質等により植生の生育環境に大きな違いがあるため、それぞれの環境に適した植生が発達しています。このため、森林や植生の状態をみれば、調査地周辺の地質、土壌、地下水位、崩壊の発生し易さなどをおおよそ把握することができます。
(1)樹木と地下水位・土壌厚
林業では古くから、地形などの要因から山地の生育環境を推察し、これに適した樹木を選定して植えてきました。この考え方を「適地適木」といいます。
人工林では、斜面の上部(尾根)ではマツ、中間(斜面)にヒノキを、下部(谷・沢)にスギを植えることが多いのですが、これは地形に応じた土壌の性質と樹木の適性を上手く組み合わせています。代表的な植林木である、これらスギ・ヒノキ・アカマツと土壌の関係を見てみましょう。
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このように、人工林を見るだけでも、どんな樹種が植林されているかで、土壌の堆積状況や地下水位の高さ等の情報を得ることができます。 |
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その他、特徴的な生育地の樹種を、表−4に例示します。これより、アカマツやコナラが多く生育している斜面は、痩せた乾燥地であると分かります。 |
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(2)湧水・地下水位の高い場所
注意すべき樹種として、タケ(マダケ・モウソウチク)類や、ヤナギ類があります。これらは水分の多いところを好む樹種です。実際に竹林やヤナギ林の分布を見ると、水の多い川沿いや崖錐、土石流堆積部分に密生しています。もし、尾根部や斜面などにヤナギ林や竹林が形成されている場合は、地形以外の要素(断層など)により水分が多く、地下水位が高い場所となります。また、コケ類が多く見られる場所も、湧水等の水分供給があるものと考えて良いでしょう。
動物では、沢ガニやミミズ、カエル、ナメクジ、ヘビなどに注意しましょう。これらの動物は、水分が多く、植生が良く茂った湿地に棲息し、ヘビはカエルなどを好んで食べます。斜面などで、これらの生物を多く見かける場合、湧水が多いことを示すサインとなります。
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(3)林相の変化点
山林を歩いていると、人工林・自然林に係わらず、均一な森林の中で、立ち枯れや倒木が集中して発生している個所や、ある地点から林床植生が変化している個所、などの局所的な変化点を見つけることがあります。一般に林相の変化は、地形の変化と一致しているのですが、地形が一様にも係わらず林相のみが変化しているような場所は、基盤岩の境界地点(基盤岩の風化状態の違いが地上樹木に影響を及ぼす)や、地下水の湧水地点(湧水地点周辺の樹木は衰退しやすい)といった、要注意ポイントを示しています。
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(4)崩壊地植生
たびたび崩壊が起こるような場所では、暖地でも常緑広葉樹が育ちにくく、ケヤキやムクノキ、イロハモミジなどの崩壊に強い落葉広葉樹が発達します。山林の中で、このような樹木が優占している斜面があれば、崩壊地であることが伺えます。
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3.現場で見つかる対策工選定のヒント
(1)導入樹種の選定
近年、対策工として緑化工を導入することが増えています。この時、どのような植物を導入すべきなのでしょうか?
2項で「適地適木」という言葉を挙げましたが、どんなに緑化実績のある樹種でも、その土地の土壌条件・水分条件に適合しなければ、定着できません。緑化植生の選定に当たっては、対象地近傍の植生を参考にすると良いでしょう。生育している植生は対象地の生育条件に適応しているので、「周辺生育樹種=導入適性樹種」といえます。
近年では、緑化対象地の周辺から種子を採取し、これを発芽させて植栽木として利用する手法が各地で行われています。「生態学的混播・混植法」という手法で、この手法で植栽すると「周辺生育樹木」=「導入樹木」となります。
この手法は、種子を採取、発芽させた苗木を植えるため、時間と手間が掛かりますが、住民参加による植栽イベント等に活用できるので、森づくりを事業者と住民とが共同で行い、事業に対する住民の理解を深めてもらえる効果もあります。
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写真引用;生態学的混播・混植法の理論実践評価 岡村俊邦 2004 |
(2)外来生物法への対応
緑化植生の選定に当たり、対象地近傍の植生を参考にする際は、近年山林でも増加しつつある外来種植生についての注意が求められます。
「日本在来の生物を駆逐し生態系を損ねるおそれのある外来生物による被害の防止」を目的とした、「外来生物法」の施行(平成17年10月1日)に伴い、緑化に利用されてきた植生のうち12種類が「要注意外来生物リスト(別途総合的な検討を進める緑化植物)」の指定を受けました。
これらの植生はかつて法面緑化工や砂防林・街路樹として導入されてきましたが、在来植生を駆逐するなどの悪影響やその可能性が指摘されています。(詳しくは環境省HPを参照;http://www.env.go.jp/nature/intro/youtyuui.html)これらの要注意外来植生を緑化工として利用する際は、導入の是非について検討を行うと共に、関係機関や住民団体等と十分な協議を行うことが必要です。
表−5に「要注意外来生物リスト」のうち、山地でよく見られる「イタチハギ」「ハリエンジュ(ニセアカシア)」を紹介します。
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(3)獣害(食害)への対応
対象地周辺の樹木に、剪定を受けたような跡(「食痕」といいます;写真−5)や、シカの糞塊(写真−6)などが見られる地域では、シカの棲息密度が高いことが伺えます。このような地域で緑化工を設置すると、植物はシカの食害を受け、生育が著しく悪化し、枯れることもあります。シカは、草本類を中心に広葉樹の葉や小枝、牧草などを好んで食べますが、好きな植生の殆どが緑化工として導入させる植生(草本類・広葉樹の稚樹など)と一致するため、シカの生育密度が高い場所では大きな被害を受けやすいのです。
このため、導入植生が十分な高さ(1.8m程度)まで生育するまでの間、食害を防ぐためのフェンスやネットなどの侵入防止施設や、忌避剤(シカが嫌がる臭いがあるもの)などの獣害対策についても検討が必要となります。
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4.施工時期
緑化工を計画・設計するに当たり、施工時期の設定も重要な要素となります。不適期に施工した植栽は定着率が低下するばかりか、基盤材の剥離等も引き起こすため、対策工の効果を著しく低下させてしまいます。
施工時期は、対象地にもっとも近い地点で観測された気象データ(最近過去10カ年)を基に、植生の発芽および生育の限界温度である5〜10℃を下回らない期間、かつ28℃を超えない期間に植物が十分に生育できる期間を選定します。
関東地方における気象図例を図−4に示します。この図によれば、春先から梅雨までの期間で、平均気温が5℃を下回らず、かつ28℃を超えない期間は、3月上旬〜6月下旬となります。施工計画では、この期間内に施工を開始・完了するよう立案することが必要となります。 |
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参考文献
砂防学講座 第7巻-2 土砂災害対策−崩壊・地すべり・落石・飛砂対策(2)−(社)砂防学会監修 山海堂 1992
森林立地調査法 −森の環境を測る− 森林立地調査法編集委員会編 博友社 1999
林地・立木の評価 −山の見方・買い方− 小倉康彦・小倉康秀 清文社 1997
これだけは知っておきたい斜面防災100のポイント 奥園誠之 鹿島出版会 1986
ニューフォレスターズ・ガイド【林業入門】 全国林業普及協会 1996
改訂 植栽の設計・施工・管理 中島宏 (財)経済調査会 1992
生態学的混播・混植法の理論・実践・評価 岡村俊邦 (財)石狩川振興財団 2004
北海道樹木図鑑【増強版】 佐藤孝夫 亜璃西社 2006
のり面 再緑化事業手引き(案) 道路のり面の再緑化検討委員会監修(財)道路保全技術センター 1996
(日本工営株式会社 環境部)
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