室内土質試験
制作:国土防災技術(株)
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地盤調査では調査目的に応じて様々な地盤材料試験が行われます1)。 図 1 ピーク強度と残留強度の説明図(地盤工学会(2009)1)) 表 1 土の強度と力学的性質の試験法の適用(地盤工学会(2009)1)) 物理試験
(1)粒度試験土の粒度試験(JIS A 1204)は,すべり面を構成する土の粒度分布を把握するために実施します。細粒分の粒度分布を得るためにはフルイ分析に加え沈降分析が必要となり,土粒子の密度試験(JIS A 1202)と含水比試験(JIS A 1203)も実施する必要があります。 図 2は,各地質帯の代表的なすべり面粘土の粒度分布です。第三紀層や温泉地帯の地すべりでは粘土含有率が高く,結晶片岩地帯の地すべりは,砂分・礫分を多く含む事例が多い傾向にあります。すべり面粘土は,厚みが非常に薄い場合もあり,図 3の事例に示すように,すべり面からの距離が離れると粒度構成が大きく変化するため,試験試料を選定する場合にはすべり面部位から厳密に試料を採取する必要があります。また,撹乱(スラリー)試料を用いて残留強度試験を実施する場合,液性限界や塑性指数といったコンシステンシー特性との比較のため,425μm以下粒径分でフルイ処理した試料がよく用いられますが,現場のすべり面材料の粒度分布と大きく乖離した状態で試験を実施すると,適切な試験結果が得られない場合もあります。試料選定の妥当性や粒度調整などの試験条件の検討,力学試験結果の考察を行う上で,粒度分布の情報が必要となります。 図 2 各地質帯の代表的なすべり面粘土の粒度分布(地盤工学会(2006)2)) 図 3 結晶片岩地すべりのすべり面からの距離による粒度分布の変化(山崎ら(1996)3) (2)液性限界・塑性限界試験土の液性限界・塑性限界試験(JIS A 1205)は,すべり面を構成する土のコンシステンシー特性を調べるために実施します。図 4は様々な地質帯のすべり面粘土の塑性指数IPとリングせん断試験から得られた残留せん断抵抗角φr’との関係図です。425μm以下の粒径分で実施した試験結果での比較ですが,一般的にIPが高い高塑性な粘土ほどφr’が低い傾向がありますが,地質によってもφr’の分布や,IPとの関係にバラツキも認められます。また,試料の活性度(IP/2μm以下粒径分含有率)は含まれる膨潤性粘土鉱物の多さの目安になります。粒度分布の特徴などと併せて,力学試験結果を考察する資料とします。 図 4 様々な地質帯の塑性指数と残留せん断抵抗角との関係(山崎ら(2000)4)の図を修正) (3)X線回折試験 粘性土の残留せん断抵抗角φr’は,粘土鉱物の種類に大きく依存することが知られています。表 2は各種鉱物を高純度に含んだ試料のφr’の一覧表です。含まれる粘土鉱物より,地盤の風化・変質状況を考察し,力学試験で得られたφr’の妥当性を検討する資料とします。 表 2 主な高純度鉱物の残留せん断抵抗角4),5),6),7)
・一面せん断試験 一面せん断試験は上下に分かれたせん断箱に供試体を収め,垂直応力を載荷した状態でせん断箱の一方を他方に対して直線的に水平移動させてせん断する試験です。通常,複数の供試体に対して異なる垂直応力の条件で試験を行って,ピーク強度(あるいは完全軟化強度)および残留強度を求めます。ピーク強度や完全軟化強度を求めるためには通常の一面せん断試験で充分ですが,残留強度を求めるためには繰返しせん断試験を行う必要があります。また,鏡肌状を呈しているような残留状態にあるすべり面の場合には,すべり面を含む不撹乱試料を用いてすべり面強度を直接計測する方法も行われています。 図 5 繰返し一面せん断試験機の構造(鈴木ら(2003)8)) 図 6せん断応力と累積せん断変位の関係(鈴木ら(2003)8)):(a)不撹乱土,(b)撹乱土 図 7は,せん断箱と供試体せん断面間の摩擦力と試料漏れによるせん断箱間の摩擦力を測定することにより,精度良くせん断強度を評価できるようにした試験機の構造図です(大河原ら(2000)9))。上下せん断箱の4箇所に小型の高剛性ロードセルが内蔵されています。
図 7 せん断箱間の摩擦力測定が可能なせん断箱(大河原ら(2000)9)) Mitachi et al.(1999)10)は,繰返し一面せん断試験で求めたピーク強度,完全軟化強度および残留強度を用いて対象地すべり地のc-tanφ図から,設計用の強度定数を検討する方法を提案しています(図 8)。図中のA点はピーク強度,B点は完全軟化強度,C点は残留強度であり,この3点を結ぶ直線とc-tanφ図の直線が交わるD点の値を設計に用いるという方法です。
図 8 c-tanφ図を利用した設計用強度定数の決定法(Mitachi et al.(1999)11)) また,図 9は,再滑動型の地すべり地において採取された試料について,一面せん断試験機のせん断面にすべり面そのものを一致させることで,すべり面のせん断強度を直接計測することができる試験機(すべり面せん断試験機)の構造図です10))。せん断箱周辺部の部材がアクリル製で可視型となっており,供試体の高さ位置が調整可能な構造となっています。せん断時にすべり面をせん断面位置にしっかり合致させることができ,試験精度の向上を図っています。図 10はすべり面を含んだ供試体の作成方法を示したものです。Skempton(1985)12))は,現場のすべり面に沿って直接せん断させて計測した強度を,現場残留強度(Field residual value)と呼んでいますが,すべり面せん断試験機は,現場残留強度を評価する点で理想的な試験機と言えます。眞弓ら11)はこの試験機を用いて124試料の試験を行っており,地質帯ごとにせん断抵抗角φ’を整理しています(図 11)。 図 9 すべり面せん断試験機のせん断箱周辺構造(眞弓ほか(2003)11)) 図 10 含すべり面供試体作成方法
図 11 各地質帯における地すべりのすべり面のせん断抵抗角(眞弓ほか(2003)11)) ・リングせん断試験リングせん断試験は,中空リング状の供試体を上下に分かれたせん断箱に収め,垂直応力を載荷した状態で上下どちらかを一方向へ回転せん断させ,せん断変位とせん断応力の関係を求める試験です(図 12)。一般的に大径の中空リング状の供試体を用いるため,不撹乱試料を用いることは難しく,通常はスラリー試料を用いて完全軟化強度および残留強度を求めるために実施します。この試験ではリングの円周方向にせん断が進行するため,供試体に無限大のせん断変位を与えることができ,残留強度を求めることに適しています。通常,供試体に用いる試料は425μm以下粒径に粒度を調整しますが,すべり面の粒度分布を考慮して粒度調整方法を検討することが必要な場合もあります。
図 12 リングせん断試験の供試体の模式図13))
・三軸圧縮試験
三軸圧縮試験は,円柱状の供試体を三軸圧力室と呼ばれる圧力円筒中に置き,ゴム膜などの不透水膜を介して供試体に等方的な流体圧を加えた(圧密過程)後,軸力を増加していき供試体をせん断破壊させる(せん断過程)試験です(図 13)。
不撹乱試料や撹乱試料を用いてピーク強度や完全軟化強度を求めることに適しています。繰返し一面せん断試験やリングせん断試験のように供試体に大変位を与えることが容易でないため,残留強度を求めることには適していませんが,すべり面を含む不撹乱試料を採取し,すべり面を破壊面の角度(45+φ/2°前後)に合わせて成形することができれば残留強度を計測することも可能です(地すべり学会東北支部(2001)14) )。 引用文献 [1])地盤工学会(2009):地盤材料試験の方法と解説 [1])地盤工学会(2006):入門シリーズ32「斜面の安定・変形解析入門-基礎から実例まで-」, pp.94-96 [1])山崎孝成・眞弓孝之・讃岐利夫(1996):変成岩分布地帯の地すべり粘土の構造と粒度特性.第35回地すべり学会研究発表会講演集,pp.129-132 [1]) 山崎孝成・眞弓孝之・由田恵美(2000):高純度粘土鉱物のリングせん断特性−すべり面粘土との対比−,日本地すべり学会誌, Vol.37, No.2, pp.30-39 [1])Tiwari B. and Marui H.(2003):Estimation of residual shear strength
for Bentonite-Kaolin-Toyoura sand mixture,Journal of
the Japan Landslide Society, Vol.40, No.2, pp.124-133 [1])藤田崇 編著(2002):地すべりと地質学,古今書院,pp.100 [1])矢田部龍一・八木則男・榎明潔(1991):破砕帯地すべり地の粘性土のリングせん断特性,土木学会論文集,436号, pp.93-101 [1])鈴木素之,山本哲朗,北村一也,中森克己,福田順二(2003):土の残留強度を測定するための繰返し一面せん断試験の方法と結果の解釈,山口大学工学部研究報告,53巻2号, pp.143-153 [1])大河原正文,三田地利之,小野寺賢一(2000):地すべり解析用小型自動繰返し一面せん断試験装置の開発と試験方法の最適化,日本地すべり学会誌, Vol.37, No.1, pp.35-43 [1])Mitachi T., Okawara M.
and Kawaguchi T.(1999):Method
for determining design strength parameters for slope stability analysis,
International Symposium on Slope Stability Engineering: Geotechnical and
Geoenvironmental Aspects, Vol.2, pp781-785 [1])眞弓孝之,柴崎達也,山崎孝成(2003):すべり面せん断試験によるすべり面のせん断強度評価,日本地すべり学会誌, Vol.40, No.4, pp.15-24 [1])Skempton A.W.(1984):
Residual strength of clays in landslides,folded strata
and the laboratory. Goetechnique, Vol.35, No.1, pp.3-18 [1]) 国土交通省砂防部・独立行政法人土木研究所(2008):地すべり防止技術指針及び同解説 [1]) すべり学会東北支部(2001):地すべり安定解析用強度決定法−実務における新たな展開をめざして−, pp141-148
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