孔内映像化
制作:明治コンサルタント(株)

1. はじめに
 ここで言う「孔内映像化」とは,ボアホールテレビ,あるいはボアホールスキャナー等の孔壁展開画像装置によって,ボーリング孔壁を観察することである.
 地質技術者は,地質解析を行う際に,まず既存資料や地表地質踏査で情報を得て,それを補完するためにボーリング調査や物理探査を行うと言うスタイルで臨むことが多い.調査対象が第三紀の堆積岩類であればこのスタイルで容易に地質構造の想定ができ,また,実際と大きく異なることも少ない.しかし,地質調査では,繰返し応力を受けた履歴を持つ*付加体堆積物や断層近傍の破砕された地質を対象とすることも多く,このような地質では地質構造の想定が実際と大きく食い違っていたケース,潜在化していた割れ目が施工により顕在化し岩盤の変形を引き起こしたケース,が発生している.
 ボアホールスキャナー等による孔壁観察は,見えない部分の地層境界や割れ目の状態等が画像で表され,更に走向・傾斜という数値が得られるため,複雑な地質構造をモデル化し,斜面挙動の機構解析を行う上で重要な手段となる.

2. 調査目的と方法
 孔壁観察の調査方法は,幾つかの文献に示されている.特に,文献2)には詳細な調査方法が述べられている.ここでは,その文献に述べられている孔壁観察の目的と方法を抜粋して示した.
 1)調査目的
 ボーリング孔内映像化調査の目的は,ダムの不連続面の観測・評価,トンネル及び斜面安定における岩盤の緩み状態の確認,地下空洞調査,既設構造物の点検等である.この内,斜面安定を対象にした場合の主な目的は以下のとおりである.
(1) ボーリングコアに数多く見られる亀裂が地下でどの様な状態にあるのかを直接観察すること.亀裂の密着性,開口幅の程度を見て,岩盤の緩み評価を行う.
(2) ボーリングコアで見られる地層境界,割れ目,断層等の方向性,すなわち,走向・傾斜を測定して,ボーリング孔周辺の地質構造を立体的に把握すること. 
 2)観測装置
 観測装置は,ボアホールテレビと孔壁展開画像装置に大別される.後者は,1987年頃,ボアホールスキャナーシステムと言う商品名で開発されたものが最初であったが,その後,ボアホールイメージプロセッサー他,幾つかの種類(いずれも商品名や登録商標であり,一般名称はないのが現状)が相次いで発表されている.各装置は,孔内水の有無等の条件が異なる部分を除けば,φ66mm(一部装置ではそれ以上の孔径でも可)のボーリング孔にウインチでプローブを降ろしながら孔壁を撮影するという形式である.文献2)に示される観測装置についてその概要を述べる.
 a) ボアホールテレビ(BHTV)
 3.5cm×2.5cm程度の有効視野を撮影する方法であり,記録はビデオテープとして残される.視野が狭く,同一亀裂を全周画像として捉える場合には手間がかかるなどの欠点があり,細部の詳細観察には適しているが,孔全体の状態を把握するのには適していない装置である.孔壁展開画像装置が普及した今日では,あまり利用されていないのが現状である.
 b) 孔壁展開画像装置
 以下に示す孔壁展開画像装置は,走査によって画像を収録し,展開画像はデジタルデータとしてPCのハードディスクなどに保存し,ディスプレイ上でのデータの処理を行い,必要に応じて孔壁の展開画像をプリントアウトする.またその他の特徴として,データ収録は機械的に行え,孔壁全周の展開画像が得られること,観察深度さえ指定されておれば地質技術者の立会いが特に必要でないこと,画像解析が容易であることが挙げられる.以下のような製品が各社により発表されている.
  • ボアホールイメージプロセッサー(BIP) : テレビカメラの前方に円錐形をした鏡を置き,撮影した全周画像を展開画像に転換するシステム.
  • ボアホールスキャナー(BSS) : 3,000ppmという高速で回転する鏡によって光のビームを孔壁全体に当てて,展開画像を合成するシステム
  • ボアホールラインカメラ(BLC) : ラインプリズムを用い,孔壁全周を走査して線分画像で検出するシステム.
  • ボアホールテレビュア : 500kHzから数MHz程度の超音波を使用して孔壁の可視画像を作成するシステム.この方法は孔内水の存在が必須である.一方、孔内水が濁っていてもよいことが最大の利点である。
 500kHzから数MHz程度の超音波を使用して孔壁の可視画像を作成するシステム.この方法は孔内水の存在が必須である.一方、孔内水が濁っていてもよいことが最大の利点である。

 3)観測データの整理と解析の概要
 孔壁展開画像装置の展開画像データ例を文献2)から引用して以下に示す.図.1に示すような亀裂の場合,展開画像では図.2及び図.3のように表現される.
 次のステップとして,このような形で表された亀裂の走向・傾斜や開口幅を一覧するとともに,頻度分布図等により地質構造解析に用いる基礎データとするのが一般的である.亀裂の走向・傾斜は,シュミットネットやローズダイアグラムにプロットし,卓越する方向や傾斜を抽出する.また,開口性亀裂が調査対象の場合は,開口量の累積グラフなどを作成し評価・解釈される.

3. 現場作業における留意点

 観測を行う上では孔の良し悪しが最も重要となる.筆者が,いくつかの現場でボアホールイメージプロセッサーを用いた観測を実施した際に,孔の状態に対して実際に行った対応を参考として以下に列記する.
  • 断層破砕帯でもまれた状態であったため,ケーシングを抜きながら調査を実施した.コア状況,掘削状況を考慮して崩壊性の顕著な部分は1m毎,やや良好な部分は2m毎にケーシングを抜く→試験という工程を繰り返した.
  • 掘削に泥水を使った時,清水で洗浄したつもりであったが,完全に洗浄できておらず画像がぼやけた状態になったため,洗浄し直し再調査した.
  • 局所的に土砂化した部分が多い孔で十分に洗浄した後に調査を実施したが,孔内水中に土砂が多く混在していたためか,画像があまり鮮明でなかった.沈殿材として硫酸アルミニウムを投入し,24時間後に再調査を実施した.
 その他の留意事項として,鉛直ボーリングの場合は過剰に意識する必要はないが,水平や斜めボーリング孔で実施する場合は,孔の方位を確実に押さえておく必要がある.また,装置は現場で直ぐに修理ができないものなので,メンテナンスはしっかりしておくことが極めて重要である.

4. 実施事例
 筆者が,ボアホールイメージプロセッサーを使って実施した事例を紹介する.

【事例】新第三紀中新世の流紋岩分布地域の岩盤崩壊対策
 道路沿いの傾斜約70°の岩盤斜面において,中腹部で亀裂の多いオーバーハングが存在しており,斜面の岩質及び亀裂状態を把握し対策工の検討を行う目的で,3本の水平〜斜めボーリング(図.4)およびボアホールイメージプロセッサーを使った孔内展開画像観察を実施した.
 調査の結果,最も開口した亀裂(図.4,5参照)は,斜面に対して直角に入っているため,これに起因する深層からの大規模な崩壊が発生する可能性は低いと判断した.一方,孔内亀裂解析の結果,主たる亀裂は斜面に対して高角度の受盤状に発達するもので,オーバーハングの形成原因は,これに起因する**トップリング性崩壊によるものと推定され,今後もオーバーハング部は不安定な状態が続くものと判断した.
 以上から,深層からの岩盤崩壊は対象とせず,不安定化する恐れのあるオーバーハング部の除去と亀裂の拡大及び顕在化を防ぐための法枠工を設計した.ボーリングのみでは最大開口亀裂の評価(特に方向性の評価)が安全側にならざるを得ず,対策工規模が過大になっていた可能性が高い.
5. おわりに
 斜面安定,特に岩盤の緩み評価や初生岩盤すべりの評価を行う上で,地質構造をできるだけ詳細に把握し,その特性を捉えた上で効果的かつ経済的な対策工を講じることが重要である.ボアホールスキャナー等による孔壁観察は,それを行う上での有効な手段となる.

以上
(文責:矢野晴彦)
引用文献
1) 地学団体研究会 新版地学事典編集員会:新版地学事典,平凡社,1996.
2) 関東地質調査業協会技術委員会:現場技術者のための地質調査技術マニュアル,関東地質調査業協会,pp.200-210,2005.