検層各種
制作:サンコーコンサルタント(株)

 物理検層は,ボーリング孔を利用して孔壁付近の地盤の物理・化学的性状を測定する手法である。測定ではある物性を探知するゾンデをボーリング孔内に挿入し,孔底〜孔口間でゾンデを移動させながら連続的に記録を取得する。得られた物性値(速度,比抵抗,密度,温度等)と調査ボーリング結果(コア観察,N値,RQD,地下水状況等)とを対比することで調査地盤の物理・化学的性質を高い精度で把握することができる。
 現在,地すべり等の土木調査で主に用いられる検層種目について,表に示した。表に各検層より求まる物性値,測定時の孔内条件(保護管,孔内水)についてまとめた。

各検層の物性値および測定条件

調

求まる物性値

保護

管有

孔内水

       

速度検層

ダウンホール法

P波・S波

地表部に震源を設置するスペースが必要

サスペンション法

P波・S波

×

×

余掘りが34m程度必要となる

見掛け比抵抗

自然電位

×

×

塩ビ管(開口率5%以上)内は測定可能

高分子ポリマー系の泥水は測定不可

解析に測定孔の室内試験(湿潤密度)を必要とする場合が多い

キャリパー検層

×

各検層の補助的な測定として用いる

複数検層実施の場合最初に測定する

 地表からの物理探査(屈折法弾性波探査,高密度電気探査など)が地下深部になるにつれデータ精度が低下するのに対して,物理検層は、全深度において一定の精度でデータを得ることができるという利点がある。また,孔底〜孔口間において物性値を連続的に測定できるため,ボーリング試料の室内試験結果に比べ情報量が多いことも特徴である。さらに原位置で行う試験のため,データの信頼性を低下させる応力の開放,試料の乱れ,温度・含水の変化などの影響を受けないことも挙げられる。
 以下に各検層について概要を記すが,ほとんどの検層では構造の都合上,ゾンデはセンサー部(基準深度)より下の構造が長くなっているため,検尺深度までの測定を満足するためには余掘りが必要となる。余掘りの延長は各測定項目および使用機器により異なり,事前に確認が必要である。

速度検層

(1) 調査概要
 単一のボーリング孔を利用して弾性波速度の深さ方向の分布を求める手法を速度検層という。P波のみを測定する場合を速度検層,P波およびS波両方を測定する場合をPS検層,また高い周波数領域の波動を用いる場合を音波検層と区別して呼称することもある。 速度検層の測定方式は,震源と受振器の配置の関係によりいくつかのバリエーションがあるが,ここでは比較的標準的に用いられているダウンホール法とサスペンション法について記述する。 速度検層に関する俗称として、P波のみを測定する場合を「速度検層」、P波およびS波両方を測定する場合を「PS検層」と呼称する場合もあるが、これらを総称して速度検層とする。

(2) 調査技術の説明
 1) ダウンホール法
 測定は3成分受振器をボーリング孔の測定深度まで降下させ、ゴムパッカーまたは開閉アームによって孔壁に圧着固定する。地表で起振されたP波・S波を孔内の受振器で受振し,得られた波形は地表の収録装置に記録される。P波のみを測定する場合には、多連式のジオフォンまたはハイドロフォンを受振器として用いる場合がある。震源として、P波にはダイナマイト発破やハンマーによる地表面打撃を用い、S波には板の側方を打撃する‘板叩き法’を用いることが多い。測定概念図を以下に示す。
 解析は,観測波形から初動走時時間を読み取り,作成した走時曲線の傾きから速度と区間深度を求める。
 2) サスペンション法
 サスペンション法のゾンデは2組の受振器と振源が一定間隔(通常1m)を隔てて設置され一体となっている。
 測定は測定深度までゾンデを降下し、孔内において起振したP波・S波をそれぞれ2組の受振器で測定する。受振器で得られた波形は、地表の収録装置に記録される。起振周波数が高いため、ダウンホール法に比べて分解能が高いが、孔壁の乱れの影響を受けやすい欠点がある。測定概念図を以下に示す。
(3) 測定・利用上の注意点
(ダウンホール法)
・多連式受振器によるP波検層では孔内水が必要となる。孔内水以浅の記録は取得できないため,別途孔壁圧着型の受振器を併用して測定を行なう。
・起震位置は,測定時のノイズとなるチューブウェーブを避けるため,一般に孔口から数m程度離す。特にケーシングが挿入された孔については,ケーシングを伝わる弾性波もノイズとなるため,起震位置については充分な検討が必要である。
・孔壁と保護管がしっかり密着していない区間では,弾性波の伝播が妨げられ測定が非常に困難となる。
・速度検層・ダウンホール法は,地盤の大局的な速度構造を把握する方法のため,詳細な速度分布(1m区間毎)を把握したい場合は,サスペンション法の適用を計画する。 (サスペンション法)
・サスペンション法は裸孔でのみ測定可能であり,保護管区間の測定は別途ダウンホール法を併用する。
・ゾンデの構成上(測定区間である受振器位置より下に震源や駆動装置などがある),余掘りが3〜4m程度必要となる。

(4) 調査結果の利用方法
(P波)
・地層の硬軟・風化の状態・破砕の程度・亀裂の多少などを確認し,地山の状況や地盤の掘削性について判定する。
・ 地表で行う弾性波探査屈折法の解析
・解釈時のコントロールデータとして用いる。
(S波)
・地盤の応答計算の入力値や地盤種別の分類などに利用する。
・S波はP 波と違い水の影響をほとんど受けないため,未固結層の地盤状況の推定に用いる。 (P波+S波)
・ポアソン比,剛性率,ヤング率の算出に用いる(剛性率,ヤング率の算出には密度値が必要)。

電気検層

(1) 調査概要
 電気検層は,地表電極および孔内電極との間で、孔壁を構成する地層の比抵抗や自然電位を測定する方法である。土木調査では、2極法(電極間隔20,50,100cm)のノルマル方式が標準的に実施されている。

(2) 調査技術の説明 電気検層の測定概念図を図に示す。ノルマルの電極配置はボーリング孔内に降下する一対の電流・電位電極A,Mと,地表に設置したもう一対の電流・電位電極B,Nからなる。測定はA,B間に電流Iを流し,M,N間に生じる電位差Vを連続的に測定し,以下の式により電極間隔AM間(a)を半径とする地層の見掛け比抵抗ρaを求めるものである。
     ρa=4πaV/I
(3) 測定・利用上の注意点
・測定は裸孔で行うことが原則で,かつ孔内水が必要である。開口率5%以上の塩ビ管内では測定が可能とされるが,塩ビ管のつなぎ目では(無穴のため)高比抵抗を示すなどの問題もあり,詳細な地盤の比抵抗分布を得ることが難しいこともある。
・掘削泥水に高分子ポリマー系泥剤を使用している孔での測定は困難である。
・周辺に発電所・変電所・工場等の高圧電流発生源が存在すると,地盤中に迷走電流が多く発生していることがあり,測定に影響をおよぼす場合がある。
・電気検層の比抵抗値は,孔奥に位置する地盤の真の比抵抗の他に,泥水・孔壁周辺の泥水浸入領域の比抵抗が合わさった見掛けの比抵抗として測定される。

(4) 調査結果の利用方法
・見掛け比抵抗および同時に測定される自然電位の変化から,帯水層,湧水等の評価を行う。
・ 土質地盤では地層層序確認・地層判定調査(ノンコアボーリングにて有効),岩盤では岩相調査・破砕帯の性状把握などに用いる。
・ 高密度電気探査の解析時のコントロールデータとして,また解釈時に比抵抗から地盤状況を推定する際の基礎データとして用いる。
・地盤内の微細な亀裂や薄層を検出する場合には,ノルマル検層より電極間隔が短いマイクロ検層の方が効果的であるが,マイクロ検層は孔壁の状態に左右される欠点を有する。

密度検層

(1) 調査概要
 密度検層は,γ線の散乱強度が物質の密度と関係があることを利用して,孔壁部の地盤の密度を測定する方法である。

(2) 調査技術の説明
 密度検層の測定概念図を示す。測定はボーリング孔内に放射性物質(線源)と検出器を内蔵したゾンデを孔底まで降下し,圧着装置によりボーリング孔の一方に圧着させながらゾンデを上昇させ,γ線のカウント数を連続的に得る。密度値はγ線カウント数から較正曲線をもとに変換される。
(3) 測定・利用上の注意点
・放射線を利用するため,線源の取り扱いはできるだけ短時間で行うなど,被爆に対して充分な注意が必要である。
・較正曲線は,試料の密度値から作成する場合が多いが,保護管の有無,孔内水の有無等によって測定値(散乱γ線強度)が異なるため,各条件で別々の較正曲線を用いる必要がある。試料採取位置は,可能であればこれを踏まえた上で効率よく行うことが望まれる。
・孔径が局所的に拡大した箇所は,密度値が小さく解析される。あらかじめキャリパー検層を行い,孔壁崩壊の有無などを確認しておくことが必要である。
・孔径以外の誤差要因の一つとして,測定時に取り込まれる自然界のγ線が挙げられる。放射性物質が多く含まれている泥岩・頁岩などが他の層と互層をなす場合は,自然放射能検層で放射線量をあらかじめ測定しておくことが必要な場合もある。

(4) 調査結果の利用方法
・原位置での地盤密度を測定する。密度の大小から破砕帯や風化帯の位置を特定する。
・地層の密度変化から,経時的な地盤の強度や状態の変化(含水量の変化・グラウト状態)などを把握する。
・P波速度,S波速度とともに地盤の動弾性係数,動剛性率などを算定する。

キャリパー検層

(1) 調査概要
 キャリパー検層は,ボーリング孔内の孔径変化を連続的かつ直接的に測定する方法である。

(2) 調査技術の説明
 キャリパー検層の測定概念図を図に示す。測定は,アームを閉じたままゾンデを孔底まで降下し,孔底付近でアームを開放・孔壁に圧着させる。アームの開閉量は,トランジューサにより電気信号に変換され地上装置へ送られる。この状態でゾンデを引き上げることにより,孔径の連続的な変化を測定する。
(3) 測定・利用上の注意点
・2アーム方式の場合,測定方向が1方向のため,孔壁崩壊がある場所ではゾンデの向きにより孔径に差が出ることがある。
・ゾンデが中心から外れると実際の孔径より測定値が小さくなるので,測定時には常にゾンデが孔の中心となるように工夫する必要がある。工夫の方法は,案内輪を孔口部に設ける,ゾンデにセンタライザー装着するなどが挙げられる。
・アームを孔底落下の衝撃や自重により開放させる方式の場合,孔底にスライムが溜まっているとアームが開放しないことがあり,あらかじめ孔内洗浄を行っておく必要がある。またアームの付け根にスライムが入り,孔底でアームが開かなくなる場合もある。

(4) 調査結果の利用方法
 キャリパー検層は,一般に以下の目的に利用される。各種検層や孔内原位置試験を実施するための補助的手段として用いられる場合が多い。
・崩壊地層について深度,孔径を直接的に把握する。
・孔径の変化で測定値が変化する電気検層や密度検層の測定結果の信頼性を確認し,補正・校正を行うためのバックデータとして利用する。
・孔内水平載荷試験,湧水圧測定などパッカーを用いる試験の前に,孔壁に乱れが生じていない箇所を把握し,測定深度やパッカーをかける区間を決定する。

温度検層

(1) 調査概要
 温度検層は,孔内の温度分布を連続的に測定する方法である。

(2) 調査技術の説明
 温度検層の測定概念図を図に示す。測定は他の検層と異なり,原則として孔内水のかく乱が起こらないようにゾンデ降下時に実施する。ゾンデに内蔵された温度計により孔内の温度を連続的に測定する。温度計は各種あるが,サーミスタ温度計が一般的である。
(3) 測定利用上の注意点
・温度検層は,他の検層種目を同時に行う場合は他の検層に先駆けて行い,他の検層の後に行う場合は,孔を24時間程度放置してから実施するのが望ましい。
・保護管の抜管の際に坑壁崩壊を生じるような区間がある場合,抜管前にストレーナやスリット加工した塩ビパイプを挿入しておくと,温度検層を行うことができる。

(4) 調査結果の利用方法
 本検層は,他の物理検層と異なり,孔壁の物理的性質を直接測定するものではなく,孔内水温の異常から孔内の水の流動,透水層の状況を推定するものである。以下に示す。
・孔内の温度分布を測定し,地層温度を推定する。
・逸水層の判別。孔口より泥水などを補給し,孔内の温度分布の変化から逸水層の把握を行う。
・湧水箇所の把握。孔口より冷水,温水などを注入し,孔内の温度変化より湧水箇所を把握する。
・温度検層では孔内水の微細な変化を検出することが困難な場合があり,この場合,示差温度検層や多点温度検層などが用いられる。示差温度検層は,一定間隔(1m程度)で固定された2個のセンサーによる温度差を連続的に測定し,孔内水の温度勾配の変化点を検出する方法であり,多点温度検層は,自然状態にある孔内水の温度を温水・冷水を用いて強制的に変化させ,孔内水の経時温度変化の違いから地下水流動層を特定するものである。

参考文献等

 検層各種の原稿の執筆に当たっては,以下の著書を参考としました。

1)「物理探査適用ハンドブック」,1998,物理探査学会
2)「物理探査適用の手引き(とくに土木分野への利用)」,2000,物理探査学会
3)「新編;ボーリング孔を利用する原位置試験についての技術マニュアル」,1995,関東地質調査業協会技術委員会
4)「斜面調査のための物理探査−地すべり・地下水・岩盤評価−」,1995,伊藤芳朗,楠見晴重,竹内篤雄
5)「土と基礎の物理探査」,1981,社団法人 土木工学会