1.調査計画の立案 地すべり調査は、予備調査、概査および精査に区分して実施される。一般に地すべり調査としては物理探査、ボーリング調査および土質調査などの一般調査と、すべり面調査、地表変動量調査、地下水調査などの特殊調査がある。以下に地すべりブロックの分割、調査測線の設定、一般調査、特殊調査の計画について述べる。 1.1 地すべりブロックの分割 地すべり地域をいくつかの地すべりブロックに分割する。地すべりブロックは、調査および対策の一つの単位となるので、運動上の特徴、地質、地形、被害等を考慮して決定する。分割する方法は微地形と運動状況により、頭部滑落崖を含む斜面や引っ張り亀裂に囲まれた斜面を一つの単位とする。なお、ブロックの数が多いほど対策工の計画および実施が困難になるのでなるべく整理することが望ましい。 1.2 調査測線設定 調査の主測線は地すべりブロックの地質、地質構造、地下水分布、地表変動およびすべり面等が具体的に確認でき、対策の基本計画および基本設計を行うのに適した位置および方向に設定しなければならない。主測線は地すべりブロックの中心部で運動方向にはほぼ平行に設けるが、斜面上部と下部の運動方向が異なる場合は、折線または、曲線になっても良い。地すべりブロックが二つ以上の場合は主測線も二つ以上とする。また、地すべりブロックの幅が100m以上にわたるような広域の場合は、主測線の両側に50m以内の間隔で副測線を設ける場合が多い。調査測線の設定例を図1に示す。 図1 調査測線の設定例1) (1) 物理探査 物理探査は地すべり地内外における大まかな地質状況を把握するもので、弾性波探査、自然放射能探査等がある。これらの調査方法は表1に示すように、原理的に一長一短があるから、現地踏査の結果に基づいて最も有効な調査方法を選定しなければならない。比較的大規模な地すべり地(面積5ha以上)でかつ地すべり土塊と基盤岩との間に明瞭な物性の相違があると考えられる場合は弾性波探査、台地状の地形でかなり多数の破砕帯あるいは亀裂などが存在する場合と考えられる場合は自然放射能探査を実施すれば最も有効である。 表1 物理探査の適応性1),4)
(2) ボーリング調査 ボーリング調査は、主測線に沿って30〜50m間隔で地すべりブロック内で3本以上及びブロック外の上部斜面内に少なくとも1本以上の計4本以上行うことが望ましい。地すべりブロックの面積が小さい場合は、地質状況を把握するのに最適な位置に2本以上配置することが望ましい。副測線では50〜100m間隔で必要に応じて行う。基盤内に断層、破砕帯が分布していたり、地質構造が複雑であったり、すべり面の分布が複雑な場合には、別途補足のボーリングを行うことが望ましい。1本のボーリングの長さは、基盤岩を確認するのに十分な長さとする。地すべりブロックの層厚が推定不可能な場合は、原則として1本あたりの長さを地すべりブロック幅の1/3程度として、実施にあたって長さを調整する.調査ボーリング計画例を下図に示す。 土質調査は、すべり面の強度あるいは対策工の設計に必要な地盤の強度を把握するために実施する。すべり面の強度を把握するための調査には、原位置せん断試験や室内での三軸圧縮試験、一面せん断試験、リングせん断試験等の土質、岩石試験がある。試験資料はボーリングコアを用いる場合が多いが、堅坑やトンネル等の施工によってすべり面の露頭が見出された場合にも実施しておくと良い。対策工の設計に必要な強度を把握する調査には、地盤反力係数を求めるための孔内載荷試験、標準貫入試験などがある。 1.4 特殊調査計画 (1) すべり面調査 すべり面調査は、すべり面を判定するために行うもので、地形、地質、地すべりの規模等に応じて最も適切な手法を用いて行うものとする。すべり面調査には、地質調査による方法と計測機器による方法とがある。計測機器には、ボーリング孔を用いたパイプ歪計、孔内傾斜計、縦型伸縮計等がある。なお、計測機器によるすべり面調査に用いるボーリング孔を地下水位観測のためのボーリング孔として併用することは、計測調査の精度を損なうことが多いので、原則として併用しないことが望ましい。 (2) 地表変動状況調査 地表変動状況調査は、地すべりの範囲、運動方向あるいは活動性、気象等の誘因との関係等を把握するために実施するものである。地表変動状況調査は、地表に発生した亀裂、陥没、隆起等の地表変動状況や、地盤の傾動、水平方向の運動量等を観測することにより行う。一般的な地表変動状況調査の方法としては次のものがある。 @ 地盤伸縮計による方法 地表面に発生した引張り亀裂を挟み地盤伸縮計を設置し、地盤の伸縮を測定する。地すべり発生の予知を行ったり、地すべり活動と誘因の関係を把握するために行う。地盤伸縮計は、各調査測線に沿って地すべりの運動方向に平行に設置するものとし、副測線沿い、地すべりの中間部及び末端部の明瞭な亀裂や段落ちのある場所にも適宜設置する。 図3 地盤伸縮計設置模式図1) 地すべり運動の明瞭な範囲を推定するため、あるいは地すべり地の活動の予測を行うために実施する。地盤傾斜計は地すべり地内のほか、調査主測線沿いの運動ブロック上方斜面にも設置して、地すべりの拡大の可能性を検討することが望ましい。必要に応じて運動ブロックの両側にも設置することが望ましい。 図4 地盤傾斜計設置模式図2) 地すべりの運動方向が不明瞭な場合や運動が激しい場合に用いる。地すべり運動地域外の固定点を基準とする横断見通し測量や三角測量、空中写真による測量を用いる。一般には地すべり地以外の固定点を基準とする見通し測量が多く用いられる。 図5 見通し測量による移動杭の観測2) 地すべり地周辺の状況から地すべり運動地外の固定点を確保することが困難である場合等に行う。地すべり規模が大きい場合や地すべり多発地帯では確実な固定点を確保できないことが多く、困難を伴う場合等にGPS測量を行うことがある。 (3) 地下水調査 斜面の安定解析、対策工の検討の基礎資料を得るために行い、地すべり地の地下水の流動経路、地すべり地内における分布、性質、流動傾向及びすべり面に作用する間隙水圧等を調査する。地下水調査には、次のものがあり目的に応じて行うものとする。 @ 地下水位測定 降雨と地下水変動との相関を把握することを目的として、調査ボーリング孔を利用し、少なくとも主測線沿いのボーリング孔では一定期間必ず行うことが望ましい。 A 間隙水圧測定 安定解析に用いるすべり面に作用する間隙水圧を把握するために行う。間隙水圧の測定方法には、直接的に間隙水圧計により測定する方法と、すべり面付近にのみストレーナー加工した地下水位測定専用孔で間隙水圧を測定する方法がある。 B 地下水追跡試験 地下水の流動方向を推定するために行い、調査ボーリング孔を利用して地下水中に水溶性の色素、無機薬品等のトレーサーを投入し、これを湧水、ボーリング孔、井戸、渓流等で検出することにより行う。 C 地下水検層 地下水の流動層の垂直分布を推定するため、地すべり地の頭部付近や主測線沿いの地下水位の高いところで行う。地下水排除工を導入する場合には必ず行う。 D 簡易揚水試験 地すべり地の土層の透水係数を把握するために行う。地すべり地内の地下水調査に利用する計画のあるボーリング孔について、必要に応じて実施する。 2.予備調査及び概査 予備調査は広域における地すべり地の予察を行い、対象とする地すべり地の概況を把握するために行うもので、文献調査と地形判読調査がある。地すべり災害の緊急性を判断しまた、精査を効率よく行うために概査として地表踏査を行う。 2.1 文献調査 文献調査は地すべりの特性を把握するために行うもので、調査地域の地形・地質・気象・過去の地すべり履歴および近傍の地すべりの発生などについて調査する。地すべりは特定の地形・地質の地域に多発しやすい。その地域の地形・地質に関する文献および情報を事前に調査し、近傍の地すべりの発生記録および、発生時の気象状況を調査することによって、その地域での地すべりの発生および運動の特性についての有用な情報を得ることができる。 地形・地質等の地盤条件に関する資料としては、 @地形図、A空中写真、B地質図、C地形分類図、土地条件図などがある。 過去の災害履歴に関する資料としては、 @既存の工事誌、A災害調査報告書、B土質(地質)調査報告書、C学会などの研究論文などがある。 気象に関する資料としては、 @気象月報、A各種観測所の観測資料などがある。 2.2 地形判読調査 地形判読調査は現地踏査では把握できない地形および、地質上の特徴を知るために行う。空中写真および地形図等を用いて地すべり地形や地質構造上の特性について調査する。地すべり地形は、判読しやすい地形の一つであるが、溶岩台地末端の火砕流やある種の河岸段丘を地すべり地形と見誤る場合があるので、後で現地踏査を実施して確認する必要がある。地形図に現れる地すべり地形の例を下図に示す。 図7 地形図に表れる地すべり地形例2) 2.3 現地踏査 現地踏査は、文献調査および地形判読調査の結果の確認と調査計画や応急計画の立案のために行う。現地踏査の際に行うことは以下のとおりである。
参考文献
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