地盤傾斜計
制作:(株)興和

1.     概要

 地盤傾斜計は、主として地すべり土塊の微小な傾斜変動を把握する目的で使用されます。
 一般に、すべり面に沿って地すべり土塊が移動しようとすると、地表面には伸縮変動の他に、すべり面の形によっては傾動運動も生じます。地盤傾斜計は、その際に生じた地盤の傾動運動を高感度の傾斜計を用いて観測し、その観測結果から地すべりの移動状況を判定しようというものです。特に、地盤傾斜計は高感度であることから次のような地すべりの予知に利用されています。
 @  地すべり地形を呈する箇所の活動兆候の把握
 A  地すべりの疑いがあるところでの土工や斜面の一部が水没により不安定化の要因を与えた場合の地す    べり運動の予測と監視
 B  活動中の地すべり近傍で、地すべり拡大の監視
 地盤伸縮計に用いられているセンサーは、水管式地盤傾斜計、サーボ式加速度計、差動トランス式、ひずみゲージ式の4種類が代表的です。この中で水管式地盤傾斜計は高感度の気泡管をセンサーとするもので、手動観測の傾斜計はほとんどが水管式地盤傾斜計です。その他のセンサーは、地盤の傾斜変動を電気的に検出する電気センサーとなっています。このため、自動観測ではこれらのセンサーを使った傾斜計が使用されています。

2.     原理

 ここでは、手動観測で多用されている水管式地盤傾斜計の原理を説明します。
 水管式地盤傾斜計は、図-1に示すように、感度約1秒の主気泡管とそれと直交方向に配置された副気泡管及びそれらを支える1本の主脚と2本の支脚がついた気泡管台とで構成されています。主脚及び支脚はネジ機構付で、回転により気泡管台を傾斜させるようになっており、主脚には円形分度板が固定されていて回転角を読み取れるようになっています。また、副気泡管は支脚の間に台を水平に調整するために取り付けられています。これらの水管式傾斜計が南北方向と東西方向に2台設置され、傾斜変動の方向とその変動量が観測されます。
                  
              図-1 水管式地盤傾斜計 1)

3.     設置方法


 地盤傾斜計は種々の影響を避けるため基礎台に設置します。基礎台の設置にあたっては、まず表土を20cm程度掘削し、木杭等の基礎杭を地中に打ち込み、50×50×30cm程度のコンクリート台を設置します。次にこの台の上に40×40cmのガラス板を水平に設置して、この上に2台の水管式地盤傾斜計を東西方向と南北方向に据え付け、回転分度板側が東側及び北側になるように設置します。最後に主脚及び支脚の軸を回転し、主気泡管並びに副気泡管の気泡を中央に合わせ分度板の示度を記録します。
 なお、気象や動植物等による影響を極力防止するため、保護箱で覆うことが必要です。

                 
                 図-2 地盤傾斜計コンクリート台の例(a) 2)

4.     観測方法

 観測は、東西方向と南北方向に設置した2台の水管式地盤傾斜計の主気泡管の偏心移動量を主脚の回転により水平に戻し、この時の傾斜角を分度板から読み取り野帳(-3)に記録します。

                  
                    -3 地盤傾斜計野帳の例 1)

5.観測結果の利用法

 観測の結果は、東西方向と南北方向それぞれについて地盤傾斜計解析計算表(-1)により諸元を計算し、各種変動図に整理します。図-58にその例を示します。


-1 地盤傾斜計解析計算表 1)






      図-4 観測方向別累積傾斜変動量図 1)  図-5 累積傾斜変動量−方向図 1)




-6 累積傾斜変動図 1)

5.     設置上の留意点

 地盤傾斜計の設置にあたっては、地すべり土塊の場所により傾斜運動量が異なるため、設置場所については十分留意する必要があります。特に、局部的な変動が発生すると思われる場所は、地すべり変動以外の傾斜運動を捉えてしまう可能性が高いことから設置は避けることが望ましいです。
 また、地盤傾斜計のセンサーは高感度であることから、必ずバックグラウンド(地すべりに伴わない傾斜変動)の測定点を設定する必要があります。

引用文献:

1)  地すべり対策技術協会:地すべり観測便覧,p.1191351996

2)  渡 正亮:地すべり調査における地盤傾斜計の利用方法について,地すべりvol.7No.4pp.27321970

3)  高速道路調査会:地すべり危険地における動態観測施工に関する研究(その2)報告書,pp6-401987

4)  国土交通省砂防部、独立行政法人土木研究所:地すべり防止技術指針及び同解説,p.29302008

5)  日本河川協会:建設省河川砂防技術基準()同解説調査編,山海堂,P2112132000

6)  綱木亮介:地すべり対策技術協会、地すべり防止技術研修テキスト(平成12年度版),V.調査技術全般,p.3740