電気探査
制作:明治コンサルタント(株)

(1)電気探査の概要説明
 地下を構成する物質の電気的性質を測定して、地盤の地質的及び土木工学的な解釈を行う探査技術を電気探査と呼んでいる。電気探査は、1950年代の地下水や鉱山から土木分野に利用され始め、現在では調査目的に応じた多くの探査方法が考案・実施されている。
 電気探査の方法には、主に次のような種類がある。

 土木の地質調査に用いられる電気探査では、比抵抗法が最も利用されている。地すべりの調査でも比抵抗法が圧倒的に多く、中でも最近は2次元比抵抗法(2次元探査、高密度電気探査ともいう)が主流になってきた。他に地下水の調査に絞った探査に自然電位法や比誘電率法が適用されたり、破砕帯などの分布把握のために比抵抗トモグラフィが行われることもある。

(2)各種電気探査の説明
 1)比抵抗法
 比抵抗法で把握できる地質状況は、地質分布、断層破砕帯・変質帯の有無、風化程度、地下水状況などである。測定の結果は、比抵抗値とその断面及び平面の分布図で示す。比抵抗値は、送信電流と測定される電位から次式によって求める。
 
 比抵抗と地盤の状況との大凡の関係は表1のように各種因子によって変化する。地質や土で測定された比抵抗値を図1に示す。一般には、細粒分含有量が多いほど、体積含水率(飽和度×間隙率)が高いほど比抵抗は低くなる。

 測定は直流もしくは低周波数の交替直流を一対の電極を通して地盤に流し、その応答(電位差)を別の一対の電極で測定する。これは図2の概念図で示すどの探査法でも同じことで、目的に応じて各種の電極配置がある。どの電極配置でも、地表には必ず4本の電極棒を設置する。
 垂直探査は測点の深度方向の見掛け比抵抗ρaを測定し、水平探査は測線に沿った任意の電極間隔aの見掛け比抵抗を測定する。2次元比抵抗法は測線下の見掛け比抵抗を多数の測点で測定するもので、垂直探査と水平探査を統合した方式である。探査できる深度は、300〜400m程度までが多い。
 
 垂直探査の解析は、1測点についてρa-a曲線を基に、標準曲線法などで図3のような測点下の比抵抗値ρと層深度を求める。水平探査の解析は、ρaの断面及び面的な分布をコンターマップ等に表示して、地下の比抵抗異常を推定する。2次元比抵抗法の解析は、測線断面の見掛け比抵抗などから初期モデルを作成し、このモデルに適合する比抵抗分布を繰り返し計算によって求めるもので、計算方法には各種の手法がある。解析結果の例を図4に示す。

 2)自然電位法(SP法)
 自然電位法は、地盤に普段に流れている電流によって生じる電位差の分布を測定する方法である。地すべり地においては、地下水の移動に伴って発生する電位を測定して地下水経路を求めることに利用されている。
 測定は2本の電極を地表面に刺し、2電極間の電位差を測定していく。解析の結果は、図5及び図6のように表示する。地下水の流動があると電位差は負(−)に振れるケースが多い。 測定・解析は簡便であるが、電位分布の解釈がむづかしく、単独で実施されることは少ない。

 3)比抵抗トモグラフィ
 比抵抗トモグラフィは、地下の不均質性及び流体の状態を良好に反応するため、破砕帯・変質帯、貫入岩体や空洞の調査及び地下水経路や地盤改良効果判定等の調査に適用される。
 測定では、地表面とボーリング孔内に等間隔で電極を配置し、任意の電極から電流を流して、そのときの電位を他の電極で測定する。解析は2次元比抵抗法と同様であり、結果はボーリング孔と地表面で囲まれた領域の比抵抗断面図として示す。
 図7は岩盤内に塩水トレーサーを流して、その経過を比抵抗変化を測定することで透水ゾーン(緑〜青色)を推定した事例である。

図7 比抵抗トモグラフィの解析例5)

(3)電気探査実施上の留意点
 比抵抗分布を求める探査法全般について、主に以下の留意点が挙げられる。
a)地形形状や地質構造が解析結果に大きな影響を与える。影響を少なくするには、測線はな るべく平坦な地形を選び、地質構造に直交させることが望ましい。この測線設定が困難な場 合は、方向の異なる測線を交叉させるのが良い
b)2次元比抵抗法では、解析断面の底部及び測線端部では解析精度が低下するので、測定範 囲を対象より広く設定する必要がある(測定範囲の求め方は文献1)を参照)。
c)電極配置には地下構造によって優劣があるので、その選定には慎重な計画が必要である。
d)2極法では2本の遠電極を測線から最大電極間隔の10倍以上離すことが望ましく、また地 質構造によっては遠電極の場所の選定に注意を要する。 
 e)測線の近傍に送電線・鉄道・工場・鋼製物などがあると、異常値が測定される。

(4)電気探査結果の利用方法及び利用上の留意点
 電気探査では、異なった地層でも電気的性質が同じならば、同一地層と解釈される。他方、同一地層であっても含水や風化などにより電気的性質が異なれば、別の地層と判断してしまう。
 前掲した図4は泥岩地帯であり、同一地層でも風化によって浅層部の比抵抗値が高くなった例である。図8は緑色片岩類という高い比抵抗岩盤のうち、浅層部がすべりによって乱されて含水が多くなった低比抵抗域として解析されている。

 図9には弾性波探査、ボーリング結果と2次元比抵抗法結果を示す。斜面上部の比抵抗分布は、斜面下部とは異なる形状を示し、ボーリング結果や速度分布をもとに総合的にすべり層を解釈している。

 比抵抗分布や比抵抗値は、多くの因子によって影響を受ける。このため、比抵抗探査結果によって地質構造やすべり層等を推定するには、複数の地質的な解釈が生じ、唯一の結果を求めることが難しい。しかし、地表地質踏査、ボーリング調査や他の物理探査等と併用することにより、地質構造やすべり層の推定精度が向上することが期待できる。

(5)引用文献
1)物理探査学会(2000):物理探査適用の手引き(特に土木分野への利用)
2)島裕雅他(1995):建設・防災・環境のための新しい電気探査法−比抵抗映像法,古今書院
3)島裕雅(1997):物理探査結果のモデル化による有効利用,土と基礎,Vol45,No.9
4)伊藤芳朗他(1998):斜面調査のための物理探査,吉井書店
5)小島圭二他(1989):ジオトモグラフィによる岩盤の画像化(その2),応用地質,第30巻,第4号
6)物理探査学会(1998):物理探査ハンドブック