2.1 観測孔の設置
1)設置孔の削孔径
地すべり調査で通常用いるφ50mm程度のガイド管の場合、最深部の削孔径をφ86mmとして掘削計画を立てる。
2)ガイド管等の準備
ガイド管は、観測目的・予想変位量・地盤状況などを考慮して、素材や径を選定する。また、計画した量の充填材を確実に充填するため原則パッカーを使用する。また、確実な間詰めのために充填材はセメント系とし、グラウトホースを準備する。
3)機械ボーリング
掘削作業時には、掘削水の循環状態や試すい日報から漏水箇所を、掘削時の状況やコア観察から孔壁崩壊などの地盤の状態を把握し、ガイド管設置時の対処法をあらかじめ検討する。また、ボーリングの堀止めは、検定・解析を行う上で重要となる不動層を5m以上確保できる深度とする。
4)設置・充填作業
ガイド管の組み立ては充填材の浸入を防ぐため、確実な接続やシール類の巻き付けを行う。充填材はセメント系を用いて地盤の強度や作業時の粘性を考慮して水や混和材などの配合を調整する(水位観測孔は別孔とする)。充填作業時には、ガイド管の破損を防ぐため圧力管理に留意する。
5)設置後
設置後は1週間以上の養生期間を設けてから初期値を観測するとともに、孔口部のA軸方向の方位を測定する。深度が30mを超える場合は、ガイド管の方位計測が可能な計測器にて、A軸方向の方位を深度方向に1m間隔で測定する。
2.2 観測
測定作業は、以下の1)〜3)の順で行う。計測器の接続方法や取扱いについては、メーカーの取扱説明書などを参照。
1)運搬
現場までの移動は、プローブは正しく収納し、衝撃を与えないように車の座席などにしっかりと固定する。また、現場内運搬はプローブが最も衝撃を受けやすい状況であるので収納ケースなどに収めて行う。
2)計測器の接続
取扱説明書にしたがって正しく接続する。止水のためのパッキンの有無には注意する。
3)測定
プローブを孔底に下ろす際は急速に降下させない。また、孔底部でプローブを保持して測定開始状態にし、測定値が安定することを確認する(目安は30分以上、反転時は5分以上)。2孔目以降は、測定値の安定を確認してから測定する。
測定時の深度合わせは、ケーブルマーカーを常に同じ位置で合わせ、測定値の安定を確認してデータをサンプリングする。0°側測定後のプローブ反転時には、プローブに衝撃が生じないように慎重に反転作業を行う。
2.3 測定値の検定・補正および解釈
挿入式孔内傾斜計では、地盤とガイド管の密着具合による設置、人為的誤差による観測、および温度や衝撃による計測器の特性などの原因により、誤差が発生する可能性があるのでそれらについて検定を行う。また、計器の特性として0(ゼロ)点ドリフト(反転時に観測孔とセンサの軸のずれ)が起こるため累積変位図では傾倒が発生するが、適正に設置・観測された不動層を利用して補正することができる。
1)検定
誤差発生の要因は様々であるが、ここでは測定結果に最も影響を与える「設置」についての検定方法を述べる。詳細についてはマニュアルを参照されたい。
○設置不良データの特徴
・固有誤差:測定時に値が落ち着かなく、固有誤差もばらつく。
・地盤状況:すべり面付近や亀裂・空隙の多い区間、脆弱な区間と対応
・累積変位図:グラフの一部がS字状に湾曲を示すことが特徴で、@同じ形状で湾曲が増加、AA軸とB軸で湾曲のピークがずれる、B湾曲のピークの位置が徐々に変化など。
・3D鳥瞰図:ガイド管が螺旋(らせん)を描いていることが多い。
2)補正
不動層が5m以上確保されている、固有誤差値のばらつきや傾倒・湾曲が小さい、および累積変位図の形状が以前の観測結果と比較して相似形である場合は、不動層を利用した0点補正が可能である。また、ガイド管の方位計測を行った場合はねじれ補正を行う。それらの補正は、土木研究所地すべりチームが提供している解析支援ソフトで実施できる。
http://www.pwri.go.jp/team/landslide/index.htm
3.パイプひずみ計
パイプひずみ計は、長さ1mの塩ビパイプの中央部に180度相対する位置に2枚のひずみゲージを接着
した計測器である。土塊の移動によりパイプに曲げひずみが生じると、その位置のひずみゲージの電気抵抗が変化し、各深度のセンサーから引き出した電線に接続された測定器によりそのひずみ量を測定する。
パイプひずみ計構造図1)
1方向の地すべり移動を測定する「1方向2ゲージタイプ(2ゲージ法のブリッジ回路を構成して塩ビパイプの曲げひずみを求める)」や2方向のデータから地すべり方向を特定する「2方向4ゲージタイプ」が一般的である。計器の設置間隔は、一般に1〜2mの等間隔で配置される。
本計測器の特徴は、高感度であることに加えて自動計測化が比較的安価であることや、設置実績が多いこと、設置がしやすいことや計測が比較的容易であることがあげられるが、一方で、得られる値が定性的であることや、変動形態がクリープやトップリングの場合解釈が難しい場合がある(早川(2002)4)などではパイプひずみ計データからすべりの層変位および変位方向を定量的に求める方法を提案)。
1)設置
パイプひずみ計の設置方法の概要は以下の通り。
・最終口径φ66mmで掘削したボーリング孔に、長さ1m程度のパイプひずみ計を直列につなげ、ひずみゲージを推定移動方向に合わせて挿入する。
・パイプと孔壁との空隙を充填する。充填材は、水位観測孔を兼ねるため砂を用いることがあるが、充填不良によりノイズが測定されることが多い。良い計測データを得る ためにはグラウトを用いて別途水位観測孔を用いることが望ましい。
・埋設後は、リード線のひずみ計番号や設置深度などを表示し保護箱に収納する。
2)観測
観測の手順は以下のとおり。
・ひずみの測定には静ひずみ指示器あるいはデータロガーを使用する。
・測定器の取扱説明書にしたがい、リード線を測定器のターミナルに接続し、ひずみ量を測定する
・リード線を逆順交換してもう一度測定する(逆側:リバース)。リバースの測定により、測定値の0(ゼロ)点ドリフトの相殺や誤測定を回避することができる。
・リード線を深度に従い順次交換(あるいは切り替え)して測定する。
(近年、測定器の精度が向上したため一部の計測器では0点ドリフトの補正の必要がなく、正順接続のみの計測を行う場合がある)
3)データ整理および解釈
・各深度のひずみ量を計算し、ひずみ柱状図や深度別ひずみ累積図を作成する。
・ひずみ柱状図は横軸を初期値からの変化量(累積ひずみ量)にとり、深部から順に積分した値をプロットする方法と累積ひずみ量をそのままプロットする場合がある。
・ひずみの累積性、隣接するひずみゲージとの関係(正反が逆)、および地質や気象との対応などを勘定してすべり面を判定する。
ひずみ柱状図(深部からの累積表示)1)
<データ解釈における留意点>
すべり面付近のパイプ歪計のひずみ値が、±どちらの極性へ変化するかについては地中の変位とひずみゲージの位置関係に依存するため、データ解釈においては十分な検討が必要である。
下左図に示すような曲がりが起こった場合、ひずみゲージ部分がA点・B点にあったとすると、A点とB点ではパイプの曲がりが逆であるため、検出される数値は互いに逆方向を示すこととなる(下中央図)。ただし、仮にパイプの曲がり付近のひずみゲージがB点のみしかなかった場合、B点のみに累積性のひずみ値が検出される(下右図)。
そのため想定されるすべり面付近においては、ゲージ間隔を短くしたパイプひずみ計を挿入するなどの方法も提案されている。
引用・参考文献
1)社団法人地すべり対策技術協会(1996):地すべり観測便覧 平成8年10月
2)(独)土木研究所,応用地質,坂田電機,日本工営(2010):地すべり地における挿入式孔内傾斜計計測マニュアル、平成22年7月
3)椛ェ商技研:パイプ歪計仕様書
4)早川嘉一,相田忠明,佐々木友和(2002):変位解析法に基づくすべり変位の定量解析,地すべり,vol39,No.2,pp75-83
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