アンカー試験
制作:藤永地建(株)

1.アンカー試験の目的と種類
 アンカー試験は、地盤条件に応じた適切なアンカー設計のための基礎資料を得る「基本調査試験」と、実際に施工されたアンカーが目的とした性能を有しているかを確認する「品質保証試験」および特殊な目的や条件下で使用するアンカーを対象にする「その他の試験」の三つに大別される。

2.基本調査試験
 (1)引抜き試験
  (a)試験に際しての留意点
 1)アンカーの極限引抜き力は、地盤状態や施工方法、アンカータイプなどにより異なるので、試験は供用アンカーの使用状態と同じ状態で行うことを原則とする。これが不可能な場合には、試験結果を供用アンカーに適用するにあたり、両者の条件の差を折り込んだ設計とすることが大切である。
 2)テンドン構成は、予測される極限引抜き力に対してその材料強度が十分な余裕を持つ必要がある。また、テンドンとグラウトとの付着切れが起こらないように、十分な極限拘束力が確保される構造とする必要がある。 
 3)アンカー体部の抵抗力を確実に評価するためには、アンカー体と自由長部との間にパッカーを取り付け、自由長部にグラウトが入らない構造とする必要がある。この場合、パッカー抵抗が極限引抜き力に影響を与えない程度の大きさとするか(布製パッカー)、影響を与えない構造(ゴム製パッカー)とする。
 4)一般に、極限引抜き力はアンカー体長に比例して大きくならないので、アンカー体長の短い試験アンカーで得られた極限周面摩擦抵抗は、長い場合の試験値より数10%大きいという報告もある。このため、アンカー体長が短い試験で得られた極限周面摩擦抵抗を用いて設計を行うと、アンカー体長が計算上短くなるため、結果的に危険側の設計となる場合が多い。
 5)このため、引抜き試験のアンカー体長はできるだけ実際のアンカー体長に近い長さとするのが望ましいが、あまり長すぎると引抜けなくなるため本来の試験の目的との間に矛盾とジレンマが生ずる。このため、責任技術者の判断によって試験アンカー体長が決定されているが、一般には土砂地盤の場合には3m以上、岩盤の場合には1〜2m程度とされている。
 また、試験結果を試験アンカーより長いアンカー体長の供用アンカーに適用する場合には、周面摩擦抵抗の大きさをアンカー体長の長さに応じて低減することも行われているが、低減率に関する技術基準はまだ確立されておらず今後の課題である。
 6)試験の計画最大荷重は、供用アンカーの設計アンカー力、もしくはこれより10〜20%大きめの荷重に所定の安全率を乗じて得られる荷重とする。計画最大荷重まで載荷しても極限状態を確認できない場合は、サイクル数と荷重段階を増やしてアンカー体が引抜けるまで載荷するが、試験の安全性を確保するため、テンドンにPC鋼材を用いる場合はテンドン降伏荷重の0.9倍以下、連続繊維補強材を用いる場合はその保証耐力の0.7倍以下を計画最大荷重としなければならない

  (b)試験結果の整理と判定
 1)極限引抜き力は、荷重(T)-変位量(δ)曲線が完全に下向きになった時点、もしくは荷重(T)-塑性変位量(δp)曲線の勾配が急激に下向きになった時点の荷重値とする。なお、計画最大荷重まで載荷しても極限状態に達しない場合には、計画最大荷重を極限引抜き力とみなす。
 2)摩擦損失量(Rv)は、T-δe曲線の直線部分を延長して荷重軸(T軸)との交点を求め、交点の荷重値と初期荷重との差として求める。

 (2)長期試験
 長期試験は、アンカーの供用中に作用しているテンドンの残存引張り力が時間の経過とともに減少する大きさを求め、構造物の安定をはかるアンカーの設計におけるプレストレスの大きさを決定するデータを得るために実施する。アンカーの長期試験は、時間経過に伴って定着時緊張力が低下していく過程を調査する「リラクセーション方式」で行われることが多い。実供用期間(経過時間te後)における残存引張り力の補正値(Pe)は、
         Pe = Pt ・Ra・logte
            ここに Pt:定着時緊張力(kN)
                Ra:アンカーに起因する残存張り力の低下係数(kN/min)
3.品質保証試験
 アンカーは、設計が適切であっても適正な施工が行われなければ目的が達成されない。このため、最終的には施工されたアンカー全数について、設計アンカー力以上の力に耐えられること、適切な荷重-変位量関係を有することなどを確認するための品質保証試験を行い、そのアンカーを供用して良いかどうかを判定しなければならない。
 (1)多サイクル確認試験
  (a)試験に際しての留意点
 1)多サイクル確認試験に用いるアンカーは、供用アンカーの一部から選定し、施工本数の5%かつ3本以上とする。ただし、地盤条件、アンカーの諸元、打設方法が異なる場合は、それぞれに対して行う必要がある。
 2)計画最大荷重は、設計アンカー力(常時)の1.5倍、または地震時設計アンカー力の1.0倍のうち、大なる荷重とする。なお、仮設アンカーの計画最大荷重は、設計アンカー力の1.2倍とする。 ただし、いずれの場合もテンドン降伏荷重の0.9倍以下、保証耐力の0.7倍以下としなければならないという安全上の制限値は遵守する必要がある。
 3)多サイクル確認試験の試験結果は、1サイクル確認試験の判定基準としても利用されるので、試験は施工時の初期段階で行うことを基本とする。

  (b)試験結果の整理と判定および留意事項
 1)試験の結果は、引抜き試験の場合と同様に、荷重(T)-変位量(δ)曲線の形で下図のように整理する。
 2)次式で定義されるクリープ係数(Δc)を算出する。
     Δc=(δt2 ・δt1)/log(t2/t1)
     ここに、δt2、 δt2:t2、t1における頭部変位量(mm)
          t2およびt1:設計アンカー力時の荷重保持時間(min)
                  (t2 / t1 は10に設定する。)
 3)設計および施工が適正であるか否かの判定は、以下の3項目に対して所定の判定基準により行う。
@)設計アンカー力に対して安全かどうか。
 計画最大荷重は、設計アンカー力より大きく設定されており、これに耐えれば設計および施工が適正であると判定する。
 万一、最大試験荷重以下でアンカーが引抜けるような場合には、その原因を究明し本設アンカーの定着深度、定着層の強度、施工方法の検討をした上で、設計の変更を行う。
A)荷重-変位量関係が適正かどうか。
 下図に示す荷重-弾・塑性曲線において、図中に示す許容範囲に入っていれば設計および施工が適正と判断する。許容範囲は設計上の理論伸び量に対し、±10%とする。(図中のA線およびC線)
 万一、この範囲からはずれた場合には、そのアンカーを供用しないものとする。ただし、低レベルの荷重段階では、摩擦損失が導入荷重に対して大きくなるため許容範囲に入らないことがある。従って、一般には設計アンカー力に相当する荷重で許容範囲にあれば適正と判断する。
 また、BS規格では設計アンカー力前後の荷重で許容範囲に入らない場合には、計画最大荷重を載荷したのち、15min間で荷重の低下が5%以内(もし5%以上のときは、2サイクル繰り返していずれも5%以下)である場合は、供用しても差し支えないとされている。
B)クリープ係数(Δc)が適正かどうか。
 1〜10minで Δc < 1 mm の場合は、設計および施工が適正と判定する。Δc < 1 mm を満足できない場合には、クリープ係数が1 mm未満になるまで試験を継続する。 この場合の試験の終了時期や、アンカーの品質判定は責任技術者の判断による。また、判定基準を満足しない場合の計画・設計の見直しも責任技術者の判断による。

 (2)1サイクル確認試験
  (a)試験に際しての留意点
 1)1サイクル確認試験は、多サイクル確認試験を行ったアンカーを除く、残りの全てのアンカーに対して実施する。
 2)計画最大荷重は、設計アンカー力(常時)の1.2倍以上、かつ地震時設計アンカー力の1.0倍以上とする。なお、仮設アンカーの計画最大荷重は、設計アンカー力の1.1倍以上とする。ただし、いずれの場合にも、前述したテンドンの安全上の制限値以下の荷重としなければならない。
 3)多サイクル確認試験結果と比較するという観点から、計画最大荷重まで載荷した後は、必ず除荷を行って塑性変位量を測定することが大切である。その後、所定の初期緊張力まで再び載荷して定着する。

  (b)試験結果の整理と判定および留意事項
 1)試験結果は、多サイクル確認試験に準じて荷重(T)-変位量(δ)曲線の形で整理する。
 2)判定 設計および施工が適正であるか否かの判定を、次の3項目について行う。
@) 計画最大荷重に耐えられれば、適正と判定する。
A)多サイクル確認試験と対比して、荷重-変位量曲線の勾配、塑性変位量に大きな差異のないことが確認されれば適正と判定する。
B)弾性変位量が許容範囲内(理論伸び量に対して、±10%)に入っていれば適正であると判断する。 万一、この判定基準をひとつでも満足できない場合の対処は、責任技術者の判断による。

4.その他の試験
 その他の試験は、特殊な目的や条件下で使用するアンカーについて、必要に応じて行う試験で、繰り返し試験・群アンカー試験・材料強度試験・高被圧地下水下における試験などがある。

参考文献
 1)地盤工学会基準グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説(社)地盤工学会2000年
 2)グラウンドアンカー施工のための手引書(社)日本アンカー協会平成15年