1. アンカー工の基本要素
アンカーは構造物からの引張り力を地盤に伝達するための構造物の一種である。引張り力を地盤に伝達させる機能を持つ「アンカー体」、アンカー頭部からの引張り力をアンカー体に伝える「引張り部」、およびアンカーを構造物に緊結する役目をもつ「アンカー頭部」によって構成される(図1参照)。
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図1 アンカーの基本要素 |
(1)アンカー体
アンカー体はグラウトの注入により造成され、引張り部からの引張り力を地盤との摩擦抵抗もしくは支圧抵抗によって地盤に伝達するための抵抗部分をいう。アンカー体は通常、セメント系の「グラウト」とPC鋼材で組み立てられた「テンドン」によって構成されている。
(2)引張り部
引張り部は、アンカー頭部からの引張り力をアンカー体に伝達する部分である。この引張り部は図2に示すように、PC鋼より線やPC鋼棒などで組み立てられた「テンドン」と伸び量を均一にするための「シース」で構成される。 |
図2 アンカーの構造図
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(3)アンカー頭部
アンカー頭部は、テンドンに発生している引っ張り力を、構造物へ確実に伝達させる機能を持つ。アンカー頭部はテンドンを締めつけ、かつ固定するために用いるくさび・ナットなどの「定着具」、定着具による大きな支圧荷重を分散させるために設置する鋼製の「支圧板」、および対象構造物の表面に対してテンドンの軸芯方向を垂直に保つための「台座」の3部材によって構成される。
*テンドン:引張り力を伝達する部材をいう。通常、PC鋼線、PC鋼より線、PC鋼棒、あるいは連続繊維補強材などコンクリート補強用の材料として、JISあるいは学会の規格として認められたものが用いられている。
2. アンカーの分類
定着地盤の支持方式によってアンカーを分類すると、「摩擦型アンカー」、「支圧型アンカー」と「複合型アンカー」の3種類に大別される。摩擦型アンカーはアンカー体と定着地盤の間に働く周面摩擦抵抗によって引張り力を地盤に伝える。グラウトの発生応力によって、引張り応力が発生する場合には「引張り型アンカー」、圧縮応力が生じる場合には「圧縮型アンカー」と呼んでいる。これに対して、支圧型アンカーでは、アンカー体前面に働く地盤の受働土圧(支圧)の抵抗によって、引張り力が地盤に伝達される。 |
図3 定着地盤の支持方式によるアンカーの分類 |
2.1 引張り型アンカー
引張り型アンカーは現在、世界的に最も広く普及しているアンカーである。ただし、自由長部と定着長部の境界付近に応力が集中しグラウト材にテンションクラックが生じる弱点がある。したがって、引張り型アンカーの採用にあたっては、テンドンを二重防食構造にして安全性を高めた製品を採用することが大切である。引張り型アンカーの構造と付着応力度の分布を下図に示す。 |
図4 引張り型アンカーの構造と荷重分布図
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2.2 圧縮型アンカー
圧縮型アンカーでは、アンカー体先端に加わっている支圧荷重を伝達するために、「耐荷体」と呼ばれる円筒状の鋼材を設置している。圧縮型アンカーの特徴は、グラウト材が全長にわたり圧縮力を受けるためテンションクラックが生じない。地盤内のせん断すべり抵抗が大きく、引張り特性やクリープ特性が安定しており、繰り返し荷重に対して安定である。圧縮型アンカーの構造と荷重分布を下図に示す。 |
図5 圧縮型アンカーの構造と荷重分布図
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2.3 拡孔支圧型アンカー
拡孔支圧型アンカーは、摩擦型アンカーの弱点であるアンカー体と定着地盤との付着強度の進行性劣化を克服しているという特徴がある。拡孔支圧型アンカーの定着部の模式図を図6に示す。拡孔型アンカーは、定着地盤までの削孔終了後、削孔底まで下ろしたウィングビットの羽を開き、削孔底から上方に向かって拡大削孔を行う。所定の拡大掘削終了後グラウトの注入を行う |
図6拡孔支圧型アンカーの定着模式図
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2.3 アンカー工の設計上の留意事項
1) 地すべり対策工としてアンカー工法を設計するにあたっては、杭工、シャフト工等のアンカー工法以外の方法を含めて、安全性、経済性、および施工性などの面より十分な比較検討を行っておく必要がある。
2)アンカー工法は、頭部の定着方式とテンドンの種類を中心としてこれらの材料及び技術が一連となった工法として製品化されているため、選定にあたってはいくつかの工法について使用目的や使用条件の観点から十分な比較検討を行う必要がある。
3)アンカー自由長は、極端に短くなると構造物に地盤を通じてアンカー体から直接応力が作用したり、地盤のせん断抵抗や土塊重量が小さく十分な引抜き抵抗力を得られなくなるなどの理由から最小長を原則として4mとする。
4)アンカー定着部がすべり面より深部の不動層で堅固な岩盤に定着されるように自由長を設定する。定着長は原則として3m以上10m以下とされている。
5)アンカー打設位置の近傍に地中埋設物、トンネルおよび杭等がある場合は、それらの構造物にアンカーの影響が及ばないよう十分考慮してアンカー傾角およびアンカー水平角を検討する。
6)アンカーの傾角は、地形、地質および施工条件等を考慮して決定するが、アンカー施工上の問題(残留スライムおよびグラウト材のブリージング)から原則として水平より‐10°〜+10°の範囲は避けるものとする。
7)アンカーの設置間隔は、設計アンカー力、アンカー体径およびアンカー体定着長等のアンカー諸元と定着地盤の性状からの相互作用を考慮して決定する。日本道路公団「グラウンドアンカー工設計指針」では、アンカーの最大間隔は5m、最小間隔は1.5mとしている。
参考文献
1)建設省河川砂防技術基準(案)同解説 設計編[U] 建設省河川局監修 山海堂
1998年
2)道路土工 のり面工・斜面安定工指針 日本道路協会 1999年
3) グラウンドアンカー工設計指針 日本道路公団 1992年
4)グラウンドアンカー工法の調査・設計から施工まで (社)地盤工学会 2001年
5)地盤工学会基準グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説 (社)地盤工学会
2000年
6)グラウンドアンカー工法設計施工指針 グラウンドアンカー技術協会編 森北出版
1996年
7)SEEE永久グラウンドアンカー工法設計・施工マニュアル SEEEグラウンドアンカー研究会 2000年
8)SSL永久アンカー工法カタログ SSLアンカー協会
9)KTB・引張型SCアンカーカタログ KTB協会 |
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