○ 地下水検層結果の解析
制作:国土防災技術(株)

(1)調査目的

 地下水検層は地下水流動層の鉛直的な分布状況の把握,地下水流動層ごとの圧力水頭の確認,すべり面位置の推定および部分ストレーナ観測孔(水位観測専用孔)の仕様決定などを目的として行う。特にすべり面位置の推定では,地すべりの移動 → すべり面付近の地塊の破断 → 地下水の浸入,有圧化といったすべり面の発達過程から,有圧地下水の検出深度をもとにすべり面位置の推定を行う。

(2)調査仕様

 ここでは一般的な食塩水検層を取り扱う。
測定手順 :
 自然水位法から汲上げ法への標準的な流れは次のとおりである。
 i) バックグラウンド測定
 ii) 食塩投入
 iii) 自然水位のまま所定の経過時間ごとの水比抵抗を測定
 iv) 食塩再投入
 v) 孔内水を汲上げながら経過時間ごとの水比抵抗測定
 汲上げ法の種別は自然水位法の測定結果を直ちに解析し,その結果から次表に従って決定する。

測定時間 :
 ステップ法(削孔中に実施) ‥‥ 食塩投入直後〜120分,6回測定
 自然水位法(削孔後に実施) ‥‥ 食塩投入直後〜180分,8回ないし10回測定
汲 上げ法 (削孔後に実施) ‥‥ 食塩投入直後〜120分,6回測定

測定間隔 :
 孔内水面以下25 cm間隔

測定器 :
 デジタル電導度計および専用の電極等を使用

作成図表 :
 地下水検層解析図(縦軸:深度,横軸:水比抵抗,パラメータ:測定時間)

(3)地下水流動が検出される原理

 地すべりの現場での実測例によれば,地下水の流入層が1層というケースはむしろまれであり,2から3層と複数に及ぶのが普通である。複数の流入層をそれぞれ検出し,その層での圧力水頭を知ることは,コア判定の上でも,またコア判定結果をもとにすべり面を推定ないし認知する上での強い根拠となる。その方法にについて述べる。
 図において,HWはある特定深さにある帯水区間(帯水層または帯水束)のもつ圧力水頭,hWは当の帯水区間位置から測った孔内水位高である。一般には,自然での地下水の流動は遅いものと考えられ,地下水検層実施時間がたかだか120分前後と短いことから,多くの場合地下水の自然流速はゼロと考えてよい。自然流動がないとの前提に立ち,以下図に基づいて説明する。
Δh=HW−hWとし,
(a) Δh=0:帯水区間から孔内へ地下水の流入はなく,従って帯水区間の存在は検出されない。
(b) Δh>0:孔内へ地下水が流入し,従ってこの帯水区間は検出される。Δhがあまりに大きくなければ検層曲線は時間とともに横方向に延び,帯水区間の厚みがかなり精度よく検出される(以下簡単に層流状検出という)。Δhが大きいと,流入地下水はボーリング孔内を鉛直方向に上昇し,帯水区間は多少ぼやけるが有圧水の存在は明らかに検出される(以下上昇流状検出という)。
(c) Δh<0:孔内水が逆に帯水区間に流出し,この帯水区間は一般に検出されない。これを遮蔽効果と名付ける。
(d) Δh<0は上のケース(c)と変わらないが,孔内水位高hWの中間区間にケース(b)を満足する帯水区間がある場合である。この場合には,この区間で希釈された孔内水が,下位の帯水区間からの逸水につれてボーリング孔中を順次下降し,この鉛直下降流の下限(水比抵抗の変化が認められる最大深さ)として,下位の帯水区間が検出される。ただし,それが帯水区間なのか単なる逸水区間なのかは判別できない(下降流状検出)。

 地下水検層における基本的パターンは以上の4通りである。端的にいえば“水は低きにつく”ということであって,検出・不検出の原理はこれに尽きる。従って,例えばケース(a)または(c)の場合であれば,ベーラー(bailer)等を用いて孔内水を汲上げ,孔内水位を人為的にHW以下に低下させれば,すなわちケース(b)の条件を満足せしめれば検出は確実なものとなる。これを汲上げ検層法といい,現場例からしてこの方法による成功率はいたって高い。ただし,hWの低下が不十分であれば依然ケース(a)または(c)のままでであり,下位の帯水区間は検出されない。冑>0の条件さえ満足させれば,常に層流状あるいは鉛直流状(上昇流状または下降流状)の検出が可能である。


(4)解析判定基準

 地下水検層解析図(深さ-水比抵抗曲線)の形態からボーリング孔内での水の流れを直視判読し,以下に示す6帯に区分することができる。これらの中で,すべり面付近にあるものについて,前記した表に示す組み合わせによって圧力水頭を算定することができる。

1) 層流状流入帯 ‥‥ 概ね1 m以上の厚さの区間で,垂直に立っている検層図(グラフ)が時間とともに右へ移動する。 厚みがある地下水流動帯。

2) 脈状流入帯 ‥‥ 検層図がピークを作り,時間とともに右へ突出していく区間。厚みがない地下水流入帯。通常はこの上下に孔内鉛直流が付随する。

3) 孔内鉛直流動区間 ‥‥ 地層とボーリング孔との間での水の流動はなく,孔内を上下方向に移動する区間。

 3)-1 孔内上昇流 ‥‥ 検層図が右下がりの平行線を呈す区間で,地下水流入帯の上位に発生する。流入した地下水が孔内を上昇していることを示す。食塩水と流入地下水との比重差に伴う上下交換の動きが加わって層流状流入帯と誤認されることもある。

 3)-2 孔内下降流 ‥‥ 検層図が左下がりの平行線を呈す区間で,地下水流入帯の下位に発生する。検層図の立ち上がり点が時間とともに下降していくのが特徴で,流入した地下水が孔内を下降していることを示す。

4) 逸水面 ‥‥ 孔内鉛直流(上昇,下降)の終点および鉛直流速が 低下する点。流入帯から流入した地下水は孔内を鉛直に流れた後,逸水面から地中に戻っていく。

5) 注水面(=脈状流入帯)または注水帯(=層流状流入帯) ‥‥ 孔内鉛直流(上昇,下降)区間内で,鉛直流速が増加する点。流入帯(層流状または脈状)が孔内鉛直流動区間の中に潜んでいることを示す。

6) 非流動帯 ‥‥ 検層図が食塩投入直後から動かない区間。孔内鉛直流動区間でも早い時間帯には投入食塩水そのものが流動するので非流動帯と判定される。流入帯でも逸水面でも注水面(帯)でもない区間。

(5)鉛直流状検出の場合の解析法

 ここにいう鉛直流とは上昇流および下降流の両方を指す。まず鉛直流速の求め方を示し,これを用いての解析方法について述べる。上昇流の場合を例にとり,鉛直流速の求め方の要領を示す。
1) 時間をパラメータとした検層図(a)上において任意の水比抵抗値を選び,これを通る縦軸線を描く。
2) この縦軸が各時間対応の検層曲線を切る位置をそれぞれ図の(b)上に移してプロットする。
3) プロットされた点を直線で結ぶ。
4) この直線の勾配から鉛直流速vを求める。すなわちv=Δl /Δtである。図に示す例の場合,GL−14mを境に,鉛直上昇流の流速がGL-14.5mを境界にして下のように変化している。
        v = 0.1m / min → 0.038m / min
つまり,GL−20mに地下水流入層,GL−14mに逸水区間が存在することが検出される。GL−14mで流速が変化するのは,この位置に逸水区間が存在することによるものである。

 このような比抵抗の変化状況から,流入量を求め圧力水頭高さを推定し,地すべり機構の解明の基礎資料とする。詳細については,
「地すべり工学―理論と実践―」,「地すべり工学―最新のトピックス―」に記してあるので,参照されたい。

<参考文献>
申潤植(1989):地すべり工学−理論と実践,山海堂
申潤植(1995):地すべり工学−最新のトピックス,山海堂