1.安全率の定義
地すべりの安全率の定義はいろいろな表現が用いられるが,一般に以下のような表現が多く用いられている。
・・・・・(1)
しかし,後述するように上記式の表現は本質的な意味では正確な表現ではない。斜面における安定解析での本来の意味での安全率の定義は次式で表される。
・・・・・(2)
つまり,安全率の式の分子項は“強さ”であって,“力”ではない。
極限平衡法では「すべり面に沿って発揮される抵抗力」と「すべり面に沿う起動力」は逆向きで常に同じ大きさの力であり,以下の関係となる。
「すべり面に沿う抵抗力」=「すべり面に沿う起動力」=「すべり面のせん断強さ÷安全率」
よって,各種安定解析式の誘導における力の釣り合いでは抵抗力Sを以下のように定義して,cmやφmを式の誘導に利用することが多い。
ここに,c:粘着力,l:すべり面長,W’:土塊の有効重量,φ:内部摩擦角,F:安全率
cm, φm:安全率を考慮した粘着力と内部摩擦角の定義(力の釣り合い式に直接利用可能)
2.二次元安定解析式
二次元安定解析は対象とする地すべり地の地下水が自由地下水か被圧地下水かによって式が異なる。
表−1に地下水の賦存状態の違いと細片に作用する水圧の違いを模式的に示した。自由地下水では細片の横にも水圧が作用するが被圧地下水の場合,水圧はすべり面のみに作用するという違いがある。
自由地下水とは,地すべりの移動体内に全層にわたって地下水の流動層が確認されるような状態,つまり,移動層全体が1つの地下水帯となっている状態であるが,このような地すべりは希である。通常の地すべり地の移動層には複数の地下水帯が存在していることから被圧地下水対応の安定解析式が利用される。
表−1 地すべり地の地下水の区分と特徴(木下,2011)
区分
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被圧地下水(有圧地下水)型
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自由地下水型
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イメージ
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特徴
(作用する水圧の違い)
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検証方法
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地下水検層ですべり面近傍の深度で部分的な地下水流入が確認されれば,被圧(有圧)地下水であるこが検証できる。
試錐日報解析の有圧水区間としても検証可能。
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移動層が砂質や礫質,シラスなどの透水性の良い地層で,地下水検層で移動層全体に層流状の地下水流動が確認された場合,自由地下水と判断できる。崩壊地に多く,地すべり地では非常に稀な現象。
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2.1 円弧すべり対応式
以下は山崎(2008)から引用して記述する。
(1)フェレニウス式
Fellenius式は,スウェーデン式などとも呼ばれる式で,(3)式で表される。
・・・(3)
ここに,F:安全率,c':粘着力(kPa),φ’:せん断抵抗角(°),W:細片重量(kN/m3),
α:すべり面傾斜角(°),u:細片の平均間隙水圧(kPa),l:細片でのすべり面長(m)
<フェレニウス式の問題点(間隙水圧の問題含む)>
Fellenius式である(3)式の問題点の1つに,土塊の有効重量が負になるという問題がある。つまり
Wcosα−ul<0
となるということである。これは,すべり面傾斜角が急な箇所に水圧が作用する場合に頻繁に発生する不具合である。しかし,(3)式中の(Wcosα−ul)tanφ' の項は,すべり面の摩擦抵抗の項目であり,最小値はゼロであり負になることはあり得ない。また,実際に「土塊が浮いてすべり面の上下が離れ,その間に水の層ができている現象」などは通常起こりえない。
正常な解析ソフトでは Wcosα−ul<0の場合はWcosα−ul=0として取り扱われるが,手計算や表計算ソフトを利用した解析では Wcosα−ul<0の状態のまま計算されていることがあるので注意を要する。
<自由地下水対応Fellenius式>
次に紹介する(4)式も完全な自由地下水対応ではない。自由地下水対応のFellenius式は次式で表される。
・・・(4)
ここに,Ue:細片の両側に作用する水圧の合力の差(kN/m)
(2)修正フェレニウス式
上述したフェレニウス式の有効法線力に関する不合理な状態をなくすために,以下の様な置き換えをした安定解析式を修正Fellenius式(法)と呼ぶ。
Wcosα−ul → (W−ub)cosα
つまり,修正Fellenius式は次式となる。
・・・(5)
修正フェレニウス法はアメリカ開拓局の簡便法とも呼ばれている。
「道路土工−のり面工・斜面安定工指針」(日本道路協会,1999)では,標準的な地すべりの安定解析手法として掲載されている。
この式は,間隙水圧を浮力的に取り扱っており,自由地下水的な発想にあることから,自由地下水対応安定解析式の代用として用いられることもある。
(3)ビショップ式
簡易Bishop法(式)は円弧すべりに対応した実用的な式として有名である。通常のBishop法は細片力も考慮した式であるが,実用的にはそれを無視することの誤差は少ないとして簡易Bishop式が広く利用されている。
・・・(6)
Bishop式の問題としてすべり面傾斜角が負(α<0)で,かつ急傾斜となる場合,特に
α<−45°となる細片が存在する場合などに計算出来ないことが発生する。
<自由地下水対応Bishop式>
自由地下水対応の簡易Bishop式は次式で表される。
・・・(7)
2.2 複合すべり対応式
(1)簡易ヤンブ式
簡易Janbu式は非円弧すべりに対応する安定解析の中で,最も実用的で簡易な式であり,使用実績も多い。
・・・(8)
nα=cos2α(1+tanαtanφ'/F)・・・(9)
ここに,f
0:修正係数で次式で近似
・・・(10)
ただし,d/L≦0.02以下ではf
0=1.0
d/Lの測り方は図3. 5 参照
図5.4.1 d /Lの測り方
L:舌端部と冠頭部亀裂の深さの点を結んだ直線長
d: Lと, Lに平行でかつすべり面に接する直線との間の距離
<自由地下水対応Janbu式>
自由地下水対応の簡易Janbu式は次式で表される。
・・・(11)
(2)その他の安定解析式
Spencer法やMorgenstern&Price法など,より厳密解に近い安定解析式が提案されているが,実務ではほとんど利用されていない。
<引用文献>
山崎孝成(2008):安定解析,地すべり防止技術研修会テキスト,斜面防災対策技術協会
木下篤彦(2011):斜面安定解析の問題点と最新の解析技術(その1),治山,Vol.55, No.9
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