地理情報システム(GIS)
制作:(株)パスコ

1.GISとは?
 地理情報システム(以下GIS:Geographic Information System)は、地理空間上の位置情報(平面及高さ座標)をベースに、さまざまな属性データを管理・編集し、これらを解析・視覚化することによって多元的な分析や判断を実現する技術です。このような技術は、コンピュータ抜きには考えられませんが、膨大なデータベースから何を検索し、どのように加工・解析するかを定義するのはあくまで人間の側で、それゆえ探求的手法ともいえます。我が国においては、昭和50年代から導入・活用がすすめられ、現在、国土空間データ基盤(1/2500数値地図データなど)や各種空間情報(空中写真、地質図等)を利活用するクリアリングハウス(※)などが国土交通省により急速に整備されつつあります。

(※):インターネット上で、複数のデータベースの中から検索条件をもとに必要な地理情報の内容等を一斉検索するシステム。

2.GISの活用
 GISは、属性データと目的を何にするかで「地すべりGIS」「環境GIS」あるいは商圏分析を行う「マーケッティングGIS」など、さまざまな顔をもつことになります。ここでは、斜面防災技術で用いる「地すべりGIS」を例にGISを紹介いたします。

3.地すべりGISの構成
 地すべりの調査・計画・対策工の流れは長期間にわたり、地形・地質などの空間情報はもとより各種観測値などの属性データを大量に維持・管理していくことになります。一方、地すべり変動をモニタリングしつつ基礎データを日々更新することも必要で、さらに各種データを解析して対策工・施設配置などの計画立案も行わなければなりません。そして、これらデータベースと各種活用機能を統一的に処理するのが、ソフトウェアであるGISエンジンというということになります。読んで字のごとくGISという車を走らせるエンジンで、データの蓄積、条件検索、位置関係による検索、視覚化(条件による色分け表示)などの基本機能のほかに数千ともいわれる各種マクロ機能(幾何解析、空間解析、統計演算処理など)により多様な処理とカスタマイズが可能となっています。また、CADデータとリンクさせるなど、外部データとの互換性の高さも挙げられます1)

「地すべりGISの構成例」

4.GISデータの基本構造
 
 膨大なデーターベースを活用し多様な機能を発揮するGISですが、基本となるのはあくまで地理空間上の位置データです。これら基本となる位置データは、ラスターデータとベクトルデータと呼ばれていて下記のような特徴を持っています。
(1)ラスターデータ
 縮尺1/10000や1/25000など小縮尺地形図、航空写真など主に背景として利用するデータの集まり。色情報を有するセル(ドット)により構成され、座標は、画像の基準点からX方向,Y方向のドット数で管理されている。
(2)ベクトルデータ
 縮尺1/500や1/1000の大縮尺地形図、地すべり構造、観測位置、対策工位置など、主に管理、解析の対象となるデータの集まり。ポイント(点)、ライン(線)、ポリゴン(面)の3種類から成り、各々座標値(x,y,z)、方向、長さなどの情報を格納、管理している。
 以上、ラスターとベクトルの基本データは、共通の属性要素を持ったデータの集まりとして「レイヤー」を構成します。実際のGIS操作では「すべり面レイヤー」「水位レイヤー」などと呼ばれます。これら各種の属性要素からなるレイヤーを重ねあわせることでさまざまな解析が行えるわけです。
 (GIS用語検索:http://www.pasco.co.jp/recommend/word/)

5.ラスターデータの活用
 地すべり条件や計測結果データなど、各種の属性情報。計測値などの一覧データ、計測値に基づく作図データ、空中写真、現地の記録写真などの画像データを格納、管理する。

6.ベクトルデータの活用
 ベクトルデータのポイント(点)、ライン(線)、ポリゴン(面)の3要素によりさまざまな情報が集約され微地形・亀裂、変状、移動土塊、氾濫域レイヤーなどにより地すべりブロックが表現されます。さらに既成の地形データをベクトル変換し、高さを与えることによって三次元地形モデルの構築が可能となり、分割ブロックの抽出や地すべり断面の解析が可能となります。

7.これからのGIS
 今後、国土空間データ基盤の整備等にともなってGISデータの共有化が拡大・推進されれば活用方法・要素技術の開発がいっそう進むことが期待されます。社会基盤整備に関する河川、道路、下水道分野では、すでにGISの多様な利用がすすみ、またGISにより大幅な効率化と高度な解析手法を手にした都市計画業務は、空間分析機能の活用なしには語れなくなっています2)。一方、GPSやリモートセンシングデータをリンクさせた地すべりや斜面安定解析などGIS解析系の研究開発も目覚しい3)4)。これらの成果を実務レベルで展開するためには、準天頂衛星などにより取得される国土空間データ基盤の精度・鮮度の整備が期待されます。

8.おわりに
 平成7年1月の阪神・淡路大震災の際には、基盤データの整備とGIS利活用における合意形成ができていませんでした。しかし、平成19年1月16日宮崎県で発生した鳥インフルエンザでは、清武町が導入・整備していた防災GISにより飼養家きんの空間解析等が行われ発生場所の消毒、周辺農場の移動制限等、必要な防疫措置が迅速に措置されています。GIS技術は、今後本格化する少子・高齢化社会における防災関連や社会資本の維持管理に欠かせぬ技術といえます。

<参考文献>
1) 村井俊治 著 「空間情報工学」 日本測量協会
2) 村井俊治監修 スペーシャリスト会編「空間情報分野の技術提案事例集」(地すべりGISの活用) 2006
3)江崎哲郎、周国云ほか「GISを用いた山地地形から三次元すべり危険斜面を抽出方法の開発と適用」
 日本応用地質学会論文集,Vol.46, No.1, 2005 
4) 浅野裕史 高木方隆 「地理情報システム(GIS)と斜面安定解析の統合による地すべり危険箇所の抽出」
 日本写真測量学会 秋季学術講演会 2002