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FEMによる斜面安定評価手法(せん断強度低減法)
制作:国土防災技術(株)

はじめに
 フェレニウス式に代表される極限平衡法と比べると、FEMの特色は、“力”のみならず“変形”が考慮される点にある。その特徴を生かすと、「最危険すべり面が自動的に求まる」、「局所破壊を取り扱える」など、FEMならではの利点が生まれてくる。ここでは、FEMを用いた斜面安定評価手法−せん断強度低減法を紹介する。

安全率の定義
 斜面安全率Fs は、すべろうとする力(滑動力S )とすべりに抵抗する力(抵抗力R )の比である。
 上式は直感的にわかりやすい。同じ式の解釈の仕方を変えてみる。Fs を分母に移動する。
 この式の解釈として、抵抗力R に低減率1/Fs を乗じると、いま発現している滑動力S に等しい、と理解できる。つまり、安全率Fs の逆数を、抵抗力R の低減率とみなすのである。例えば、Fs =1.25の状態とは、1/1.25 = 0.80であるから、
S =0.80R
となり、斜面の持つ抵抗力R の80%相当の滑動力S が生じている状態である。当然、R の100%相当の滑動力S が生じたとき、斜面は臨界状態である。

 単なるいいかえにみえるが、FEMの斜面安全率の定義は、まさにこの低減率1/Fs (せん断強度低減法と呼ばれる)にもとづく。具体的な手順を以下に述べる。

せん断強度低減法の手順
 まず、斜面の抵抗力R を過大評価するところから始める。つまり、Fs =0.10のように小さなFs を与え、低減率1/Fs =10(増幅になる)をR に乗じる。この場合、本来のR の10倍のせん断強度(10倍の粘着力、10倍の摩擦係数)を地盤に見込んだこととなり、実質的に地盤は破壊しない。ここから段階的にFs の値を増加(Fs=0.10、0.20、0.30など)させていく。これは、地盤のせん断強度を徐々に下げていくことになる。
 特徴的なのは、このように徐々に強度を下げることにより、FEMモデルの中では斜面の潜在的に弱い部分から地盤の塑性化が始まることである。適切な設定をおこなえば、すべり面の形成過程なども再現されるであろう。斜面の局所破壊を取り扱うことも可能となる。 さらに、せん断強度を低下させていくと、地盤内の塑性域が斜面上部から末端までつながり、すべり面が完成する。その時点ですべりが生じたと判断すれば、徐々に増加させたFs の、そのときの値が安全率Fs となる。



せん断強度低減法の特徴
 せん断強度低減法の特徴を述べる。

長所:
・すべりの形成過程がわかる。
・最危険すべり面が自然とあらわれてくる。
・局所すべり(破壊)を知ることができる。
・変形量を知ることができる。

 徐々にFs を増加させるという操作により、斜面のすべり過程を再現している点が、せん断強度低減法の最大の特徴といえる。


 一方で、課題というべき部分もある。

課題:
・すべりが生ずると判断する明確な基準がない。いわゆる臨界状態の判定が難しい。
・上の事由により、解析者(解析コード)によって、判定値(安全率)がずれる可能性がある。
・すべり面を指定できない。(原理的には、恣意的にすべり層強度を弱くすれば対応可)

 臨界状態の判定法は、この手法の抱える本質的な問題である。FEMモデルの中で、すべり破壊を明確に規定する(知る)方法はおそらくない。

 鵜飼(1989)は臨界状態の判定法として、弾塑性FEMの非線形部分、その反復計算部分で誤差が収束せず発散した時点として安全率Fs を算定した。鵜飼の方法では、反復計算法の種類(鵜飼はNewton-Raphson法を使用)やそのパラメータ、打切り誤差基準の取り方などにより、算定される安全率にブレがでる。しかし、鵜飼によれば、ビショップ式とほぼ同等の安全率が算定され、じゅうぶん実務の使用に耐える方法とされている。実際、塑性域の進展とともに非線形FEMの収束性は急激に低下する。その低下の度合いが級数的な変化であるため、反復誤差という作業基準であっても、臨界状態の判定としてはそれなりの精度を有するものと推察される。

せん断強度低減法の適用例
 ここでは2事例を、若井・蔡(2003)より紹介する。なお、若井・蔡の方法も鵜飼の方法と同じものである。

(例1)
 Greco(1996)やMalkawi et al.(2001)が取り上げた図−8の形状の斜面である。物性値は斜面全体で均質、摩擦角φ=10°、粘着力c=9.8kPa、単体重γ=17.64kN/m3である。
 表−1に示された安全率をみると、FEMによる安全率は簡易Bishop法とほぼ同じ結果となっている。FEMとBishop法の差よりも、簡便法とBishop法の差が大きいことがわかる。



 (例2)
 傾斜した層構造を持つ斜面で、Greco、Malkawiのほか、Arai and Tagyo、Sridevi and Deepらも検討をおこなっている。物性値は表−2に示されている。
 FEMにより探索された臨界すべり面は、Grecoのすべり面とよく一致した。臨界すべり面の位置は、採用手法により若干異なる結果となった。また、斜面安全率は0.4前後と全体に小さな値となっている。



参考文献