概要
岩盤斜面における熱赤外線探査は、斜面表面の温度分布・温度変化を測定することにより、岩盤の風化・開口亀裂の発達具合・岩盤のゆるみ状況・湿潤状態等を把握する目的で行われるものである。
図-1 赤外線の放射・入射と1日の温度変化模式図
原理
空気は暖まりやすく冷めやすい。さらに空気は熱を伝えにくい。一方水は温まりにくく冷めにくい。岩盤の温度は、空気や水の存在比率、すなわち岩石中の空隙率と含水比によって、温度変化の大きさが変わることになる(表-1参照)。風化が進んでいて乾いているような部分や、空隙が多い部分は温度変化が大きく、健全部分や湿潤部分は温度変化が小さくなる(表-2参照)。
表-1 熱的な物性
表-2 岩盤の状態と温度変化の関係
測定系統の例
図2 熱赤外線調査機材の系統図
調査の留意点
撮影方法
一括撮影(1画面で対象斜面全体を撮影)方法と、複数の画像に分割する方法がある。赤外線探査では、現地で二時刻間の岩盤表面温度分布を観測する。この際、二時刻間でカメラの方向がずれると、正しい温度差分布がとれなくなる。そこで分割撮影の場合は、各分割撮影の方向を正確に再現する必要があるため、カメラを固定して一括撮影をした方が能率的である。
しかし、地形の制約等で斜面からの距離が迫っているなど、斜面を分割撮影せざるを得ない場合は、定点に人を立たせたり、斜面にアルミ板等の温度のコントラストのあるものを指標として、撮影方向を合わせる。また、分割撮影する場合は三脚を複数用意して動かさないようにする。
調査結果例
図−3 調査対象斜面(可視画像) 図-4 スケッチ図
図-5温度変化図(二時刻間の温度変化量) 図-6 温度変化の大きい部分
図-7 岩盤表面温度の径時変化図
調査結果の利用方法と留意点
自然岩盤への熱赤外線探査の摘要事例はまだ少ないので、解釈・評価手法は確立していない。現状で考えられる解釈を以下に述べる。解析を行う際には、図-8のような温度の経時変化図を作成すると理解しやすい。また温度計で、気温や斜面の温度変化を測定しておくと有用である。
図-8 岩盤斜面の経時温度変化例
(1)解釈での留意点
・解釈の際には、気温・日射・前日や当日の天候・表面の凹凸・湧水・植生等を把握しながら、熱容量・熱伝導度を考慮して判断する。上記の判断にはステレオ写真との重ね合わせや経時変化図の作成が有用である。
・自然岩盤の場合には、凹凸が激しく、温度分布・温度変化もその影響を受けやすい(凸部ほど温度が高く、温度変化が大きい)。
・植生や湧水部は温度変化が小さい。
(2)温度と解釈
自然岩盤斜面の赤外線探査で、検出が期待できるのは、岩のゆるみや浮石・風化部・湿潤部・開口亀裂・岩質の違い等である。
@岩のゆるみや浮石:
岩のゆるんでいる部分は空隙率が大きいため、温度変化が大きい領域として検出される可能性がある。浮石に関しても開口亀裂が背後に存在すれば熱の伝導が遮断されるため、温度変化が大きくなる可能性があると考えられる。
A風化部:空隙率が大きいため、温度変化大の領域として検出・区画化しやすい。
B湿潤部:含水比が大きいために熱容量も大きく、温度変化が小さい領域として検出されやすい。
C岩質の違い:岩種による熱容量の違いが大きければ検出されうる。
D開口亀裂:空気は断熱材としての効果があるため、開口亀裂付近では温度変化が大きくなりやすい。図-9の例1.の場合は、開口部の周辺が線状の温度変化大の領域として検出される場合が多い。例2.のように表面近くの浅いところで、表面に平行に近い走向で亀裂が走っている場合には、温度変化が大きい領域が、広がりをもって検出されうる。
図-9 開口亀裂周辺での温度変化
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