岩石試験
制作:明治コンサルタント(株)

1.はじめに
「岩石試験」は,「土質試験」に対して使用されている用語です。
土質試験が「土」を対象として行われる室内試験であるのに対し,岩石試験は,ボーリングコアや露頭で採取した「岩石」を対象として行われます。
 岩石試験の目的は,がけ崩れの原因究明や対策工の検討・設計を行うために,がけ崩れの恐れがある,あるいはがけ崩れが発生した斜面の安定性検討や斜面を構成する岩石(正確には岩盤)の基本的特性の把握です。たとえば,斜面の安定性検討を行う際には,単位体積重量,粘着力,内部摩擦角,変形係数等の物性値が必要となりますが,これらは岩石試験を行って設定することができます。
 なお,土質試験と岩石試験,言い換えると,「土」と「岩石」との境目は明確に決まっているわけではありません(図 1参照)。しばしば,「岩石」が風化によって「土」と同様の挙動を示す場合等には,土質試験の仕様・基準で試験を行います。


1 地質学サイクルに伴う岩石や岩盤の工学的性質の変化模式図 1)

また,一般的に岩石試験は,亀裂を含まない「岩石自体」の特性を把握するための試験であり,がけ崩れが発生する斜面を構成する「岩盤」の特性を直接的に把握できるのではありません。
 すなわち,多くの場合,岩盤には層理面,断層面,不整合面,節理面等の明瞭あるいは潜在的な亀裂が発達していて,それらが岩盤の強度特性や変形特性に多大なる影響を与えるからです。特に,岩石自体が堅固な古い時代の堆積岩類,変成岩類等の岩盤の物性は,岩石自体の物性ではなく,ほとんどが亀裂の密度,連続性,開口度等で決まります。

2.岩石試験の種類と基準

1)物理試験

岩石の物理的な性質を把握するための試験で,主につぎのような試験があります。

密度試験や含水比試験等は,岩石の基本的な性質(密度,含水比等)を把握するために行い,試験結果は,安定計算や対策工の検討に利用します。
パルス透過法による超音波速度測定も,岩石の基本的な性質である超音波速度を得るために行います。試験結果は,たとえば,地山弾性波速度との関係から亀裂係数を求める等に利用します。岩石のスレーキング試験等は,岩石の風化に対する抵抗性を把握するために行います。試験結果は,後述するように,斜面を構成する岩石が「崩壊性要因を持つ地質」かどうかの判断や対策工の選定根拠等に利用します。

◆(社)地盤工学会基準

・岩石の密度試験          :JGS2132-2009

・岩石の含水比試験         :JGS2134-2009

・パルス透過法による超音波速度測定 :JGS2110-2009

・岩石の吸水膨張試験        :JGS2121-2009

岩石のスレーキング試験      :JGS2124-2009

岩石の促進スレーキング試験    :JGS2125-2009

◆東・中・西日本高速道路(株)基準

・礫の積比重及び吸水率試験     :JHS 108-2006

・岩の破砕率試験          :JHS 109-2006

・岩のスレーキング率試験      :JHS 110-2006

・岩の乾湿繰返し吸水率試験     :JHS 111-2006

このほかの物理試験として,X線粉末回折試験((社)土木学会基準),浸水崩壊度試験(日本鉄道建設公団・地質調査標準示方書)等があります。

2)力学試験
岩石の強度や変形に係る性質を把握するための試験で,主につぎのような試験があります。岩石の一軸圧縮試験は一軸圧縮強度,岩石の三軸圧縮試験は粘着力・内部摩擦角,圧裂による岩石の引張り強さ試験は引張り強度を求めるために行います。また,試験結果は,地盤のモデル化,各種解析,安定計算等に利用します。

◆(社)地盤工学会基準

・岩石の一軸圧縮試験           :JGS2521-2009

・岩石の非圧密非排水(UU)三軸圧縮試験  JGS2531-2009

・軟岩の圧密非排水(CU)三軸圧縮試験   JGS2532-2009

・軟岩の圧密非排水(CUバー)三軸圧縮試験 JGS2533-2009

・岩石の圧密排水(CD)三軸圧縮試験    JGS2534-2009

・圧裂による岩石の引張り強さ試験     :JGS2551-2009

この他の力学試験として,一面せん断試験,多段階三軸圧縮試験,クリープ試験,リングせん断試験等があります。

          
            

2 岩石の一軸圧縮試験(左)と三軸圧縮試験(右)の試験実施状況

なお,岩石や岩盤の力学特性を現場で把握する試験として,シュミットロックハンマー試験,点載荷試験,針貫入試験,原位置せん断試験等があります。

3.岩石試験結果の具体的な活用方法

つぎに,岩石試験結果のがけ崩れ調査・解析・対策工検討への活用方法について述べます。
ただし,がけ崩れや地すべりに係る岩石試験の活用法について,既存の図書・基準等に明確な記述が少ないのが実際のところです。
ここでは,しばしば切土の設計・施工で課題となる「崩壊性要因を持つ地質」に焦点を絞って述べます。

                     1 崩壊性要因を持つ地質 1)

             
 
1の「崩壊性要因を持つ地質」のうち,@侵食に弱い土質〜B風化が速い岩は,地山を構成する岩石そのものに崩壊しやすい素因が含まれていることを意味します。
 たとえば,斜面を構成する地質が「B風化が速い岩」である場合,一般に地山表層は土砂化していて,また,風化は地山深部まで及んでいることが予想されます。また,がけ崩れの具体的な対策を検討する上では,風化が速いことを念頭に置く必要があります。
 それでは,斜面を構成する地質が,「B風化が速い岩」であるかを判断するための試験及び結果の利用法を以下に述べます。
 まず,検討対象斜面を構成する岩石(ボーリングコアあるいは露頭試料)を採取し,「乾湿繰返し吸水率試験」を行い,吸水量増加率を求めます。
 つぎに,この吸水量増加率とのり面の限界勾配との関係( 3)から,切土の安定勾配の目安を把握します。ここで,切土を自然斜面に置き換えれば,検討対象斜面のがけ崩れに対する安定性を評価できることになります。
 なお,岩石の耐風化性を把握するための試験は,色々な機関で試験方法が考案されていますので,目的や試験試料の状況等を考慮して行う必要があります。


 
3 乾湿繰返し試験による吸水量増加率−法面勾配と法面の安定性− 1)


 なお,「崩壊性要因をもつ地質」のうちの「@侵食に弱い土質」や「A固結度の低い土砂や強風化岩」については,岩石の密度試験等を行って定量的に評価する場合もありますが,露頭観察やボーリングコアの詳細観察結果に基づき評価していることも多いです。
たとえば,花崗岩類の場合,風化の程度によって土質・岩質がマサ土(強風化岩:粘性土〜砂質土〜礫混じり土)〜風化岩〜新鮮岩と変化し,それに伴い物理特性や力学特性も変化します( 4 5参照)。
    図 4 花崗岩の風化帯の模式図 2)           5 強度と間隙率の関係 2)

なお,すでにすべり面が形成されている地すべりの調査では,すべり面を形成している粘土層等を対象として一面せん断試験やリングせん断試験等を実施することがあります。


4.終わりに

がけ崩れに係る調査・解析・対策工設計に必要となる岩石・岩盤の物性を把握するための岩石試験について述べました。
 紙面の都合で,個々の岩石試験の内容や評価方法には言及できませんでした。さらに詳しくは,つぎのような参考文献をご参照下さい。

【参考文献】

・地盤材料試験の方法と解説,平成2111月,(社)地盤工学会

NEXCO試験方法 第1編 土質関係試験方法,平成217月,NEXCO

以上

(文責 佐藤尚弘)

◆引用文献

1)事例で学ぶ地質の話−地盤工学技術者のための地質入門−,平成172月,(社)地盤工学会

2)設計用地盤定数の決め方−岩盤編−,平成197月,(社)地盤工学会