実務者のための岩石肉眼鑑定法−堆積岩−

高知大学理学部 横山 俊治

1.堆積岩の分類
2.さまざまな顔と名前を持つ泥質岩
3.現場での岩石肉眼鑑定
4.岩石肉眼鑑定力向上に向けて
参考書

写真−1 乾燥して表面がひび割れた泥岩の転石(新潟県 松之山地すべり地内 新第三紀層)
写真右上の暗灰色の小岩塊はひび割れた泥岩の一部を割ったもので、内部の乾燥していない部分が現れている。

写真−2 小さな多殻球状体の集合体をなす泥岩層(大阪府泉南市 白亜紀最末期の和泉層群)
この泥岩層は砂岩層と互層する。写真右端は風化が進み、より細かい多殻構造を形成している。塩類風化が進行し石膏が晶出している。
1.堆積岩の分類

 地表面にできた岩石片や生物の遺骸などのばらばらの物質が流水や重力の作用で地形的に低い場所に運ばれて堆積したものが堆積物です。堆積物の性質やそれがたまった条件にはさまざまなものがあるので、堆積物が岩石化した堆積岩も多種多様な顔をもっています。通常、堆積岩は堆積物の起源に基づいて、砕屑性堆積岩(例:泥岩や砂岩)、生物的堆積岩(例:石灰岩やチャート)、化学的堆積岩(例:岩塩や石膏)に分類されます。火成岩の中でも、火山灰や火砕流などの火山砕屑岩は堆積という作用を伴いますから、とくに砕屑性堆積岩中に挟まれて産する場合には堆積岩に含められることも少なくありません。




2.さまざまな顔と名前をもつ泥質岩

 泥を起源とする岩石は総称として泥質岩と呼ばれます。泥質岩は温度・圧力の変化に敏感に反応してその顔を著しく変化させますので、顔の違う岩石にはそれぞれ別の名前がつけられています。
 海底などに堆積したもっとも細粒(1/16mm以下)の堆積物はと呼ばれます。泥が圧密を受けると水が絞り出さていきます。さらに圧密が進んで、構成粒子が再配列させられ、水に溶けていた物質も沈殿してくると、ハンマーが突き刺さるくらいの固まりになります。そうなると泥ではなく粘土と呼ばれます。
 さらに温度・圧力の上昇が起きると、粘土は更なる脱水と新たな鉱物の晶出が進行して、もはやハンマーでないと割れない硬さの物質、すなわち岩石になります。これが泥岩です。しかし、泥岩は岩石といっても固結度の低く、容易に乾燥して水分が抜け出たり、含まれている粘土鉱物が膨らんだり、塩類が晶出したりするために、写真−1のように簡単にひび割れが発生してぼろぼろになります。泥岩でも固結度が上がるにつれて、小さな多殻球状体の壊れ方(写真−2)に変化します。さらに固結が進むと、板状小片に割れるようになります。

 このような泥岩がさらに高い温度・圧力のもとにおかれると、層状の結晶構造をもった粘土鉱物であるイライトや緑泥石が層理面に平行に配列して、層面劈開と呼ばれる剥離面が発達してきます。そして岩石は新鮮であってもほぼその面で割れやすくなります。このような岩石を頁岩と呼んでいます(写真−3)。
写真−3 ほぼ劈開に沿って剥がれた頁岩
右:高知県土佐清水市 四万十層群(古第三系)
右:高知県室戸市行当岬 四万十層群(古第三系)
写真の右側の岩石は劈開面に沿って酸化していたところで剥がれた。

写真−4 劈開(スレート劈開)に沿って薄く剥がれる性質をもつ粘板岩(宮城県雄勝町 上部ペルム系登米層中部)
写真上:劈開面で剥がれた粘板岩の板。
写真下:劈開面に沿って細かく割れている粘板岩の岩片。



 さらに温度・圧力が高くなると、セリサイト(白雲母の一種)や緑泥石が面状に配列した顕著な劈開が肉眼スケールで隙間なく発達し、劈開面に沿ってほんとうに薄く剥ぐように割ることもできるようになります。このような岩石を粘板岩と呼んでいます(写真−4)。粘板岩ではしばしば層面劈開よりも層理面を横切り褶曲軸面に平行な軸面劈開の方が発達しています(写真−5)。多くの粘板岩は堆積岩の特徴を残していますが、各種の変成鉱物を含んでいますので、変成岩に分類されることもあります。

写真−5 白色と灰色の縞状粘板岩の層理面を横切って発達する劈開(スレート劈開)(宮城県 雄勝町。上部ペルム系登米層中部)
劈開面は急傾斜で、開口した割れ目となっているところも多い。

 粘板岩よりも高圧の変成作用をうけた泥質岩は千枚岩黒色片岩(泥質片岩)と呼ばれています。これらの岩石は、白雲母や緑泥石など板状の変成鉱物が面状に配列した片理と共に黒白の縞状構造が現れてきて、堆積岩の特徴をほとんど残しておりません。千枚岩の片理面では絹糸光沢が現れ、黒色片岩のそれでは非常に微小な褶曲(細密褶曲構造)の凹凸が明瞭な線構造をつくっています。こういった特徴は粘板岩にはないものです。また泥岩や頁岩、粘板岩が花崗岩の貫入をうけて温度が上昇すると、変成鉱物である黒雲母が晶出して、岩石の色は黒色から次第に赤紫色を変化しで輝きが増してきます。色の変化だけではありません。ハンマー打撃で金属音を発するほど硬くなります。このような岩石をホルンフェルスと呼んでいます。
 以上のように、未固結の堆積物と堆積岩との間にも、堆積岩と変成岩との間にも厳密な境界線は存在しません。堆積物から堆積岩、そして変成岩まで、泥質岩は連続的に顔を変えていきます。このような岩石を、厳格な基準をもうけて分類・命名すること自体に無理があります。岩石はどのような基準で分類しても、区分境界の近くにくる岩石は両方の性質をもっていて、どちらの名前で呼ばれても誤りではないということです。


3.現場での岩石肉眼鑑定:付加体を構成する堆積岩を例として

写真−6 酸化(風化)によって色が変化する頁岩(高知県伊野町 秩父帯北帯)
酸化は右の岩石ほど進んでいる。左端の岩石は劈開面に沿って酸化しているが、岩石内部は新鮮で黒色を示す。中央の岩石は割れ目に沿って特に酸化が進み淡黄灰色を示すが、割れ目から離れると劈開面は淡青灰色を示す。右端の岩石は岩石内部まで酸化し、全体が黄土色に変わっている。
 岩石肉眼鑑定は手、眼、耳、ときには鼻や舌をも使っておこなう、高い感性が要求される試験法です。現場では露頭や転石をハンマーで叩きながら、岩石の硬さや、岩石構造や割れ目の発達の仕方、風化による岩石の崩れ方、新鮮岩から風化岩までの色の変化などを手、眼、耳で観ていくのです。このとき現れてくる特徴というものは岩石の種類ごとに異なってくるので、その点をうまく捉えて岩石を命名していきます。特徴をうまく捉えられる部位を適切な方向・角度・強さで叩いていくのがハンマー打撃の技法です。
 それを実践してみましょう。現場は高知県中央部の秩父帯で、地質は、中・古生界の泥質岩(頁岩・粘板岩)砂岩チャート石灰岩緑色岩です。

(1)泥質岩(頁岩・粘板岩)
 頁岩や粘板岩は劈開に沿って板状に剥がれる性質がありますので、まず、露頭では板を重ねたような産状を示しているところがその可能性があります。板に側面をハンマーで叩くと、頁岩や粘板岩ならば、さらに薄く割れます。新鮮な剥離面は非常に平滑で黒光りしていますが、剥がれた面はしばしば酸化と風化で黄褐色や灰白色になっています。岩石全体に風化が進むと淡い黄土色に変化します(写真−6)。風化によって色が変化する様を会得しておけば、泥質岩の肉眼鑑定に有効です。

(2)砂岩
 砂岩は風化すると全体に淡黄色がかり、砕屑粒子が浮かび上がってくる(写真−7)ので、風化岩で鑑定する方が容易です。反対に新鮮な砂岩は濡れていると黒みが強くなってくるので、極細粒砂岩では頁岩と見誤るかもしれません。砂岩は明瞭な節理以外にも割れ目が発達している(写真−8)ために、ハンマーで叩くと複雑な形に割れます。また泥質岩や緑色岩と違って石英脈が発達するのも大きな特徴です(写真−7)。


写真−8 縦横に割れ目の走る砂岩(高知県吾北村代次地すべり 秩父帯北帯)
風化は写真−7の砂岩の方が進んでいる。黒い筋に見えるところが割れ目である。
写真−7 表面のわずかな風化により砕屑粒子が浮かび上がっている砂岩(高知県吾北村代次地すべり 秩父帯北帯)
矢印は石英脈。

写真−9 赤色の層状チャート(高知大学構内 秩父帯南帯?)
一部風化により脱色している。




(3)チャート
 単層の厚さが数cmの珪酸分の著しく多い部分と厚さ数mmの珪酸分に乏しい泥質部とが規則的に重なった層状チャート(写真−9)の構造は非常に特異で、その産状だけからチャートと認定することができます。珪酸分に富む部分は非常に硬くてハンマー打撃で火花が飛び、破断面は貝殻状でガラス光沢をもって輝いています(写真−10)。チャートは風化・浸食に強いためにしばしば急崖をなしているので、遠くからもチャートの分布が推定できます。なお、チャートは白、灰、黒、赤、青、緑などさまざま色を示しますが、上記のような特徴から識別は容易です。

写真−10 青色の層状チャートの拡大写真(高知県吾北村代次地すべり 秩父帯北帯)
破断面は新鮮でガラス光沢を示す。
写真−11 石灰岩(高知県吾北村打木地すべり 秩父帯北帯)
一見、貝殻状に割れ、ガラス光沢も認められるが、破片が薄く剥がれている様子を注意してみると、軟質の岩石であることが分かる。再結晶化が進み、化石は見られない。




(4)石灰岩
 石灰岩の色や破断面はチャートと似たところがあるかも知れません(写真−11)が、ハンマーの先で簡単に傷がつくほど軟質なので、両者の区別は付きます。表面水や地下水による岩石表面の溶食も石灰岩の特徴です(写真−12)。また石灰岩にはフズリナや海ゆり、珊瑚などの化石が含まれていることも大きな特徴ですが、変成作用を受けると容易に再結晶して方解石の集合体に変わります。

写真−12 表面が溶食をうけた石灰岩(高知大学構内 秩父帯)
波打ったようにみえる凹凸は地下水や雨水による溶食(浸食)の跡である。既存の割れ目に沿って深く抉れている。このような溶食の特徴を捉えることができれば、間違いなく石灰岩である。
写真−13 さまざまな色を呈する緑色岩(高知県吾北村代次 秩父帯北帯)
これらの緑色岩は劈開の発達したタイプである。写真上の左ふたつの岩石は緑色〜青緑色を示すが、写真上の右の岩石は全体に赤紫色がかった銀灰色を示す。これらの岩石はいずれも劈開面上に小さな突起があり、薄く剥ごうとすると割れてしまう。片状緑色岩の多くは色と共に劈開面の形状にも特徴があり、これらの特徴から泥質岩(特に紛らわしい淡青緑色を呈する珪質粘板岩とも)や砂岩と区別できる。
しかし、写真下の岩石は平滑な劈開面で割れ、色も淡緑灰色で淡青灰色の砂岩(火山岩起源の砕屑粒子を多数含む砂岩)との識別は難しいが、慣れてくると、両者の岩肌の違いが分かってくる。




(5)緑色岩
 緑色岩は玄武岩質の溶岩や火山砕屑岩が比較的低温の変成作用をうけて、緑泥石や緑廉石、アクチノ閃石といった緑色の鉱物が多数生成している岩石です。岩石自体の色も暗緑、緑、黄緑など緑色系のことが多いですが、えび茶、赤紫、青緑あるいは赤紫を帯びた灰と実に多様な変化も示します(写真−13)。基本的にはこの岩石の色とややざらついた岩肌の特徴が会得できればすれば、ほかの岩石と識別できます。緑色岩の転石の肉眼鑑定では、岩石表面に発達する丸い孔も有効な証拠になります(写真−14)。この丸い孔隙は発泡による気孔を充填した白い方解石(写真−15)が地表付近の環境下で溶けたものです。なお、ときに緑色岩には海底に噴出した枕状溶岩の構造が残っています(写真−16)。

写真−14 気孔を充填していた方解石が溶食されてできた孔が点在する緑色岩(高知県代次地すべり 秩父帯北帯)
岩石表面は著しく酸化し、緑色岩本来の色は残っていないが、このような丸い孔の存在から緑色岩(溶岩本体部)と同定できる。なお、孔の分布から岩石の下面が枕状溶岩の外側であった可能性が高い。


写真−16 枕状溶岩(長野県安曇村 秩父帯沢渡コンプレックス)
円形のブロックひとつひとつが枕状溶岩の断面を示す。枕状溶岩の断面で、中央部と縁辺部の色の違いは急冷による岩石組織の違いに起因している。
写真−15 方解石によって充填された気孔が点在する緑色岩(高知県佐川町勝森鉱山 秩父帯南帯)
色は茶褐色で、この岩石を緑色岩と同定することは難しいかも知れない。しかし、この岩石は幸いにも方解石に充填された気孔が存在することから緑色岩(溶岩本体部)と同定できる。


4.岩石肉眼鑑定力向上に向けて

 厳密な岩石の命名には鉱物種の同定において偏光顕微鏡観察を必要とするので、偏光装置の付いていない肉眼による岩石鑑定には自ずと限界があります。そうはいっても、高度な知識と技術を必要とする偏光顕微鏡観察は敬遠されてしまうかも知れません。しかし、岩石の名前を決めるだけならば比較的短期間の訓練で修得できます。実務ではそれで十分なのです。しかも、実は偏光顕微鏡観察こそが肉眼鑑定力向上の近道なのです。


参考書

水谷伸治郎・斉藤靖二・勘米良亀齢(1987):日本の堆積岩.岩波書店,226p.
橋本光男(1987):日本の変成岩.岩波書店,159p.