火山岩岩石の露頭の見方

新潟大学理学部 山岸 宏光


◇まえがき

 地すべり対策協会から、火山岩の見方をホームページに掲載したいので書いてほしいとの依頼があったので以下に述べてみたい。
 岩石鑑定の観察レベルにはおよそ3段階あって、露頭次元、サンプル次元、顕微鏡(偏光、電子顕微鏡など)次元があるとすると、せいぜい応用地質的な現場に携わる技術者としては、サンプル次元まで判断できれば上出来であろう。偏光顕微鏡や電子顕微鏡下の鑑定は社会ではあまり使われず、むしろ土木工学では、硬岩、軟岩、あるいは割れ目密度の区分などが重視されるが、特に日本の新第三紀の火山岩の場合には、初生的な構造が残されているため、英語でいうphysical volcanology , つまり 産状学的な見方が重要であるが、それはあまり教えられていない。
 地すべりや岩盤崩落などの危険度判定の場合には、地下水の流動する不連続面が問題であるから、割れ目などとともに、初生的な堆積ユニットの境目が不連続面を形成しやすかったり、角礫と基地の混じり具合や粒度分布などが透水性などを決定づけるからである。


溶岩・岩脈の露頭観察

◇火山岩の見方
◇以上を判断するためのポイント
◇火山岩の岩相
◇火砕岩
◇あとがき

◇火山岩の見方

 火山岩の露頭を観察するには以下の点が重要である。

(1) 岩質の識別 : 流紋岩、安山岩、玄武岩の区別
(2) 岩相の識別 : a.火砕岩と、b.溶岩・岩脈の区別
a. 火砕岩の場合 : 降下、流動を区別する
  降下火砕物か、高温の流れ(火砕流)か、水との混合物(泥流・土石流)か
* その判断基準
 粒が揃っているか、粒が不ぞろいか、粒が一定方向の配列をしているか、アト ランダムな配列か
b. 溶岩・岩脈の場合 : 節理を識別する
  1)冷却割れ目か、2)テクトニックな割れ目か
1) 冷却割れ目の場合 徐冷か、急冷か、
2) テクトニックな割れ目の場合 断層割れ目(変位あり)、せん断割れ目、 引っ張り割れ目、シーテングを識別する


◇以上を判断するためのポイント
1) 形成時にできた構造か、後世的な構造か
2) 溶岩の場合には、その末端、上端、側端はアア状か水冷破砕か
3) 割れ目は規則的か、不規則か、直線的か曲線的か
4) 火砕岩は同質(monolithologic)か、異質(heterolithologic)か
5) 火砕岩の角礫と基地との比率はどうか
6) 角礫と基地は同一か異質か
7) 異質の場合:基地に発泡した破片(スコリア、軽石)などが入るか
8) 大きな破片に火山弾やスパッターなど特有の構造をもつものがあるか
9) 同質の場合:自破砕溶岩(定位置破砕か)、自破砕岩(再移動ハイアロクラスタイト)か
10) ハイアロクラスタイトに連続する溶岩体やフィダーダイクは確認できるか


◇火山岩の岩相
  • 色調では、流紋岩は白っぽく、玄武岩は黒い。安山岩はその中間の色を示す。
  • 玄武岩・安山岩の場合:柱状節理など、規則的な割れ目があるのはマグマがゆっくり冷えた場合にでき、不規則に多数の割れ目ができるのは、速く冷えた場合である。
  • 陸上の溶岩の外側は、円弧状の割れ目ができたり、気泡が多く開いているなどアア状になったり(図―1)するが、内部は柱状や板状の規則的割れ目ができる。


    図―1 陸上の玄武岩溶岩で、表面がアア状となっている
    (北海道羊蹄山山麓)

  • 水中の場合では、溶岩の外側はアア状になることはなく、角礫状に破砕され、ハイアロクラスタイトとよぶものになる(図―2)。特に玄武岩では、枕状溶岩とよばれるローブ状の形態をとることがあるが、安山岩では少ない。


    図―2 水中の安山岩溶岩。下部にハイアロクラスタイトが見える
    (北海道熊石海岸)

  • 流紋岩では、内部では同じく柱状節理ができるが、流理構造と呼ばれる縞模様が特徴であり、特に水中に噴出したものは、内部に柱状節理が発達して、やや粗い感じであるが、その外側に黒曜石とよばれる黒いガラスの帯があり、その外側にはさらに真珠岩(パーライト)とその破砕したハイアロクラスタイトになるのが一般的だが、この部分はほとんど粘土化してしまい、流紋岩体内部との関係は地すべり運動で不明になっていることが多い。


    図―3 水中流紋岩溶岩の帯状配列             
    内側(左側)が結晶質のコア、中間部が黒曜石とパーライト、
    外側(右側)はハイアロクラスタイトとなっている(新発田付近)。

  • 溶岩であるか岩脈(岩床)であるかは、周りの地質との関連で決まる。


◇火砕岩
 火砕岩とは、角礫状になったものの総称である。径数cmから数10cmの角礫とそれを充填する基地からなることが多い。
 角礫岩片の見方は、溶岩・岩脈と同様であるが、基地との関係が問題。
 角礫と基地は同じ色か。異なる色(たとえば角礫が黒く、基地が黄色でも、同じ場合がある)でも、それは基地がよりガラス質のため風化・変質を強く受けているため。このようなものは、溶岩や岩脈が水底など水の多い環境で噴出して、水冷破砕を受けたものである。


図―4 同岩質の一定位置ハイアロクラスタイト
(佐渡小木海岸の玄武岩)

 また、角礫と基地が異なる火砕岩の場合に、基地の破片にはより気泡の多い軽石やスコリアなどの破片が入っていると、爆発的な作用、降下あるいは火砕流による流動したものかのどちらかである。
 火砕岩には、塊状のものと層状のものがある。塊状のものは、水冷破砕されたままの状態で(図―4)、層状の場合はハイアロクラスタイトの二次流動堆積物(図―5)と降下堆積物のフォールユニットあるいは流動堆積物のフローユニットと考えられる(図―6、7、8)。


図―5 同岩質の角礫からなるハイアロクラスタイトで層状のもの。
ユニット内で上部に粗い粒子が多くなる(逆級化構造)。


図−6 下部が降下軽石層、上部が火砕流堆積物(樽前山山麓)

 火砕岩で層理のあるものでは、粒が揃っているか(淘汰がよいという)、不揃いか。細粒部分が欠けている場合は、降下したものが多い(図―6)。その場合には層厚が一定しているが、流動したものは不揃いで、層傾斜が急で厚さも横方向に変化する。たとえば、スコリアが降下してできた斜面が崩れて、崖錐を形成したものでは、降下した堆積物の厚さは変わらないのに、崖錐は下方に向かって厚くなり粗くなる(図―7)。また、降下と流動の中間的なものにサージ堆積というものがある(図―8)。


図―7 下部はスコリア降下堆積物、中間部は崖錐堆積物
(サントリーニ島の玄武岩質火砕物)


図―8 上部の層理のある部分がサージ堆積物(玄武岩質火砕物)、
下部の粗粒な部分は火砕流堆積物(北海道登別)

 陸上で形成された火砕岩に、溶結凝灰岩とよぶ軟岩がある。これは溶岩同様に柱状節理が発達する。これは、火口から噴出し、付近に降下した火砕物や火砕流が500度以上の高温のため、定着後にも熱を保ち、軽石などが自重で潰れてコンパクトになり、その後ゆっくり冷えるためである(図―9)。


図―9  溶結して柱状節理の発達した安山岩質降下軽石火砕物
(北海道駒ケ岳山頂火口)


◇あとがき
 火山岩の露頭観察の初歩的な見方を簡単に紹介してみたが、実際の観察の際には目的もはっきりしている必要がある。つまり、火山地質か、斜面地質か、土木地質かにより、同じ火山岩でも目の付けどころは異なっていいであろう。つまり、火山地質であればその成因が問われ、斜面地質や土木地質であれば、硬さ、割れ目、透水性などが問題になる。いずれにしても、火山岩に限らず地質露頭の見方に習熟するには、ある程度の経験が必要であることはいうまでもないので、以上のポイントを参考に経験を積むことが期待される。