実務者のための岩石肉眼鑑定法―変成岩―

瀬尾孝文 (中国開発調査株式会社)

1.変成岩とは   2.変成岩の分類  3.変成岩の命名について  4.接触変成岩  

5.広域変成岩(低圧型〜中圧型)
 
6.広域変成岩(高圧型)  

 7.写真サンプルの変成相図(温度―圧力図)上での位置づけ   〈参考資料〉



1.変成岩とは
 既存の岩石が後生的な温度・圧力等の条件下に長期間おかれると、新しい条件に適合して、鉱物組成や組織、場合によっては化学組成等も変化し、別の岩石に変わります。この変化過程が変成作用であり、これによって生じた岩石を変成岩といいます。したがって、変成岩の原石としての「既存の岩石」は、堆積岩でも火成岩でも変成岩でもよい訳です。変成作用の要素としては、地殻変動(プレートの沈み込み及び浮き上がりと現位置への定置)に伴う圧縮と変形作用、マグマ等の熱源が関与する再結晶作用、そして水やガスの移動に伴う化学組成変化などがあげられます。




2.変成岩の分類
 変成岩の分類は変成作用の種類に基づいて、広域変成岩と接触変成岩とに大別されます。
 高温の火成岩体が地殻の上部に貫入するような場では、火成岩体に接した数百メートル程度の比較的せまい範囲の岩石は、熱による温度上昇がおこります。この昇温に伴う鉱物の再結晶作用が接触変成作用で、変形が生じないことから、再結晶鉱物は定向性をもたず、モザイク状組織を示す硬質な岩石となり、ホルンフェルスと言われます。当然のことながら、火成岩体に近いほど変成度(再結晶度)が高く、出現する鉱物種の組合わせによって、変成分帯がなされることもあります。接触変成岩の今一つの特徴として、全体が赤味がかったり、堆積面などが癒着して不明瞭となり塊状になったりすることが一般的ですが、斑状変晶が目立つ場合には、点紋ホルンフェルスとして区別される地帯が形成されることもあります。
 一方、日本列島のように海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むところでは、既存の岩石は地下深部に達し、強い圧縮力をうけ温度や圧力が高くなり、もとの鉱物組成や組織は改変される変成作用が進みます。この変成作用は、前述の接触変成作用が限られた範囲でおこるのに比べて広域的であり、数百キロメートルかそれ以上にも広がる変動帯が形成され、広域変成帯と呼ばれています。広域変成岩は片状ないし片麻状構造によって特徴づけられます。
 泥質岩源の広域変成岩では、変成度が上がるにつれて、粘板岩(スレート)、千枚岩、結晶片岩、片麻岩という岩型変化をたどります。これらの特徴を顕微鏡写真でみると次のようになります(東元ほか、1983:岩国地域の地質の写真引用)。
 白雲母黒雲母千枚岩
 再結晶作用による雲母類の定向配列は顕著ですが、結晶粒以外に岩片も少量残っています。オープンニコル撮影。
   白雲母黒雲母片岩
 再結晶作用は完全で、雲母類は片理面にそって平行に配列し、変成分化による縞状構造もできつつあります。 千枚岩に比べて結晶粒は粗粒化。オープンニコル撮影。

 縞状黒雲母片麻岩
 粗粒化した再結晶粒よりなり、黒雲母主体の暗色部と珪長質の優白質部とが変成分化し、明瞭な縞状構造を示すようになります。クロスニコル撮影。




3.変成岩の命名について
 変成岩は形成場所によって、広域及び接触変成岩に分けられますが、さらに原岩(化学組成)と岩石組織(変形・再結晶構造)が主な区分の基準となります。変成度に応じた再結晶作用と変形構造の変化(前述した泥質岩起源の変成岩を例にとると、粘板岩→千枚岩→片岩→片麻岩といった岩石名)が基本となります。
 原岩の違いは化学組成の違いといってもよく、泥質、砂質(珪長質)、珪質、石灰質、苦鉄質(塩基性)などがあげられます。
 基本的には以上の要素を組合わせて命名されますが、莫然と変成相を岩石名としたり、地域的な変成分帯(鉱物組合わせ)名を加えて表示することもあります。変成作用によって生じた特徴的な鉱物を示して、より具体化されたり、接触変成作用であることを明確化する意味で、ホルンフェルスと表示することもあります、これ以外の表現方法もありますので、命名者の意図をくみとる必要も生じます。

 〈命名事例〉
・基本形:泥質岩起源で、主に黒雲母の定向配列で片状組織が明瞭な岩石
      →泥質片岩または黒雲母片岩
・低変成度:原岩組織を残し、パンペリー石と緑泥石の有色鉱物が生じているものの再結晶度が弱く、片理が不明瞭な塩基性岩
      →パンペリー石―緑泥石(を含む)塩基性岩(緑色岩)
・高変成度:角閃石主体で、ざくろ石の斑晶が目立ち角閃岩変成相に達した岩石
      →含ざくろ石角閃岩
・接触変成岩:接触変成作用によって生じた紅柱岩やきん青石の斑状変晶が目立つ泥質岩
      →点紋ホルンフェルス
 以上のように分類や命名は要素が多く、統一的でないのが現状です。
 変成岩を鑑定しようとする場合、出現する変成鉱物が重要な要素となりますが、大半 は顕微鏡下での判定となり、現場では困難を伴います。したがって、事前に地域の地質 ガイドブックや地質図などの資料で情報を入手しておく必要があります。特に接触変成岩 の場合は、熱変成をうけた範囲や変成度が示されていることは少なく、地質工学的にも 影響することがあり、注意が肝要です。




4.接触変成岩
1.泥質ホルンフェルス
  (山口県岩国市美和町深瀬)

 原岩の泥質岩の堆積構造は残存して いるが、熱変成のため剥離性は失なわれ 硬質化しているため貝殻状の割れ口となる。径1mm以下のきん青石の斑晶が多数晶出しています。全体に赤味をおびているのは、細粒の黒雲母が再結晶したためと考えられます。
2.砂質ホルンフェルス
  (山口県岩国市美和町深瀬)

 泥質薄層や岩片を含み原岩 としての 砂岩の様相を強く残していますが、再結 晶作用により硬質化し貝殻状の断口を 示します。ハンマーで叩くと火花が出るほど 硬化していることも あります。
3.珪質ホルンフェルス
 (山口県岩国市美和町深瀬)

 原岩としてのチャートの構造(優黒色 薄層と石英に富む優白質部の互層)は よく残っています。全体に石英粒は 再結晶により粗粒化し、塊状の岩石に 変わっています。一部に暗灰色の粗粒 石英がみられますが、この結晶粒は 雲母などの包有物を多く取り込んで います。したがって、石英粒が再結晶 した証ともいえます。
4.塩基性ホルンフェルス
  (広島市佐伯区湯来町伏谷)

 原岩の構造は若干残っているものの、 鉱物は再結晶作用によって生じた緑色角 閃石や斜長石で占められています。熱源の 花崗岩に近い高温部の岩石には単斜輝石 が生じているものもあります。剥離性は 完全に失われ硬質塊状となり、貝殻状の 割れ口を示すようになります。
5.石灰質ホルンフェルス
  (山口県岩国市明見谷)

 原岩の石灰岩の構造(不純物を含む層)は、 わずかに残っているものの、ほとんど方解石 の集合体となっています。もう少し熱源に近 づけば大理石と呼ばれる大粒状の方解石の 集合体に変わり、スカルン鉱物なども伴われ ることがあります。
6.点紋泥質ホルンフェルス
  (山口県熊毛郡上関町八島)

 紅柱石の斑状変晶(点紋)が目立つ岩石 です。紅柱石は原岩の層状ないし、片状構 造とは無関係(ランダム配列)に結晶成長 していることが接触変成作用の特徴の一つ です。




5.広域変成岩(低圧型ないし中圧型)
7.黒雲母スレート帯の泥質岩(千枚岩)
  (山口県岩国市行波錦川沿い)

 低圧型の代表である領家変成岩のうち、 もっとも変成度の低い「黒雲母粘板岩帯」 に属する泥質岩源の岩石です。白雲母が 再結晶して片理は形成されているものの、 不完全な状態にあります。この面はもとの 堆積面とほぼ一致し、うすく剥がれるよう に割れる性質をもっています。写真のサン プルは褶曲などにより、層理面がやや乱さ れています。前述の白雲母黒雲母千枚岩の 顕微鏡写真を参考に見て下さい。
8.黒雲母スレート帯の砂質岩
 (山口県岩国市行波錦川沿い)

 肉眼的には、原岩の砂質岩そのものに しか見えず、再結晶鉱物を識別することは 困難です。写真のサンプルは含礫泥岩の 砂岩が多い部分です。
9.黒雲母スレート帯の珪質岩
 (山口県岩国市行波錦川沿い)

  8と同様に、肉眼的には原岩としてのチ ャートそのものの様相を呈しており、再結 晶鉱物の有無は顕微鏡下でしか確認でき ません。
10.黒雲母スレート帯の塩基性岩
  (山口県岩国市行波錦川沿い)

  「黒雲母スレート帯」に属する領家変成作 用をうけていますが、原岩の構造である層理 面が残存する緑色の塩基性岩です。鏡下では、 緑泥石やアクチノ閃石などの再結晶は認め られます。剥離性は泥質岩(千枚岩)ほど顕 著ではありません。
11.黒雲母スレート帯の石灰岩
 (山口県岩国市行波錦川沿い)

 領家変成作用による再結晶は、ほとんど 認められませんが、若干片理が発達してい るように見えます。ハンマーの先など尖っ た金属で容易に傷がつきますから、石灰質 かどうかの判別は可能です。また希塩酸を かけると二酸化炭素のあわを生じます。石 灰岩地帯は溶食による空洞(鍾乳洞)が地 下に生じていることもあり、必ずしも強固 な岩盤といえないこともあります
12.泥質雲母片岩
  (山口県光市室積象ヶ鼻)

  領家変成帯の「雲母片岩帯」に属する泥 質岩起源の岩石。雲母類の定向配列 によ る片理面が発達し、著しい剥離性を示しま す。片理面上には、きん青石(暗灰〜灰色) の晶出が確認できます。
 砂質片岩は「黒雲 母スレート帯」の砂岩と見分けがつきにく い岩相を呈しています。前述の白雲母黒雲 母片岩の顕微鏡写真を参考に見て下さい。
13.塩基性片岩
 (山口県光市室積象ヶ鼻)

 領家帯の「雲母片岩帯」に属する塩基性 岩起源です。緑色角閃石や斜長石が再結晶 し、定向配列が見られますが、泥質片岩ほ どの剥離性はなく、むしろ暗緑色塊状とな ることもあります。時に黄緑色の緑れん石 が集合状に再結晶していることもありま す。
14.珪質片岩
 (山口県光市室積象ヶ鼻)

  領家帯の「雲母片岩帯」に属すものの 見かけは、「黒雲母スレート帯」のものと 同様に変成をうけていないチャートのよ うにも見えます。よく観察すると石英の 粗粒化や優黒質部の黒雲母などの再結晶 を確認できます。変成をうけていないチ ャートに比べて剥離性も増しています。
15.含紅柱石泥質片岩
 (愛知県岡崎市本宮山)

  柱状の紅柱石(斑状変晶)が片理面にそ って配列する泥質岩源の片岩。斑状変晶を 除いた部分は雲母片岩と同様の岩相を示 します。
 柱状の紅柱石の周辺は白雲母に変 わっていますが、中心部には.淡紅色の新 鮮な結晶が残っています。この変成鉱物の 晶出により、本岩が領家帯の「紅柱石帯」 に属すことがわかります。
16.含十字石泥質片岩
 (富山県黒部市宇奈月)

  飛騨変成帯の一部をなす中圧型とされ る宇奈月変成帯を構成する変成岩の一種。 片理面は著しく、全体が「銀ねず」と呼ば れる光沢のある独特の銀ねずみ色を呈し ています。
 全岩組成的には鉄とアルミニウ ムに富む岩石で、黄褐色の十字石(径5mm 程度)の斑状変晶が点在 しています。
17.泥質片麻岩
  (山口県周防大島町日見)

  再結晶粒は粗粒化し、雲母類は片理に そって平行配列し、変成分化作用によっ て優黒質と優白質層からなる縞状構造が 発達しています。原岩は泥質岩と思われ、 珪長質になるとざくろ石が伴われること が多くなります。本岩は領家帯の「縞状 片麻岩帯」の珪線石安定領域から産出し た岩石です。前述の縞状黒雲母片麻岩の 顕微鏡写真を参考にして下さい。
18.砂質片麻岩
  (山口県岩国市由宇銭壺山)

  領家帯のうちの「縞状片麻岩帯」に属す 砂質(珪長質)起源の片麻岩です。より変 成度の低い地域の砂質岩と似ていますが、 やや粗粒化しています。縞状構造はほとん ど認められません。本岩には、若干ミグマ タイト質の流動混合相が見られます。
19.珪質片麻岩
  (山口県岩国市由宇銭壺山)

  層状チャートの構造をよく残した片麻岩 ですが、優黒質の薄層はぼやけて広がり、 黒雲母が再結晶しています。一方優白質部 の石英は粗粒化し、含有物を多量に含む灰 色の結晶も目立つようになります。しばし ば暗赤色のざくろ石も見られることがあり ます。
20.含珪線石泥質片麻岩
  (愛媛県越智郡上島町魚島)

  領家変成帯のうちの最高変成度である「珪 線石帯」に属する泥質岩源の片麻岩です。本 岩は雲母類の配列で形成される縞状構造が 明瞭で、斑状変晶としての珪線石の巨晶が見 られます。
21.含ざくろ石黒雲母片麻岩
 (山口県熊毛郡上関町)

  領家帯の最高変成度を示す地帯に産出す る塩基性岩起源の片麻岩。本来、塩基性岩 を構成していた角閃石はほとんどすべて黒 雲母に変化し、暗赤色のざくろ石の斑状変 晶が目立つ岩石です。片麻状構造は弱く、 塊状の岩石に変わっています。なお、塩基 性岩の中には角閃石と黒雲母及び斜長石が 主体をなす角閃石も出現することがありま すから、注意が必要です。
22.ミグマタイト
  (山口県岩国市由宇町天ヶ岳)

  領家変成帯のうち、高い変成度を示す 地域に産出する泥質岩起源のミグマタイ ト、花崗岩マグマと泥質片麻岩とが混合 したもので、片麻岩片(レスタイト)の 回転を伴うような流動構造が見られます。 同じ地域には、珪質岩や砂質岩との混合 相もみられます。
23.含ざくろ石角閃岩
  (埼玉県比企郡吉見町)

  本岩は吉見変成岩の超苦鉄質岩起源の 岩石です。ざくろ石の斑状変晶と角閃石よ り構成される。塊状で剥離性は認められな い。らん晶石や単斜輝石などを含むことも あり、「角閃岩〜グラニュライト相」を示 すとされています。
24.含コランダム片麻岩
(岐阜県高山市下小鳥)

  飛騨変成岩の中で、もっとも古く最高変 成度(グラニュライト相)を示す泥質ない し珪長質(アルミニウムに富む)の片麻岩 です。写真サンプルのように、うすい 紫 色のコランダム(ルビー)を斑状変晶とし て含有する片麻岩は一般的ではありませ んが、斑晶以外の部分は飛騨変成岩の特徴 を示しています。
25.正片麻岩
 (山口県周防大島町椋野)

  見かけは、領家帯の「古期花崗岩」に 似ていますが、主に黒雲母による片理が 発達し、片理面上には黒雲母集合体が、 楕円形の斑状変晶状に配列することが特 徴です。花崗岩質岩が領家変成作用をう けたと考えられています。




6.広域変成岩(高圧型)
26.パンペリー-緑泥石帯の泥質岩
  (山口県岩国市錦町)

  三郡変成帯の弱い変成作用をうけた岩 石で、片理の発達は認められず、再結晶作 用も微弱で、変成作用をうけているかどう かも肉眼では判定できません。顕微鏡下で は、パンペリー石、緑泥石、白雲母などの 再結晶が認められます。塩基性、砂質、珪 質岩などについても、同様に変成作用をう けていないように見えます。強いて言えば、 8、9、10の岩石に酷似しています。応用地 質的には変成岩の範ちゅうに入れなくて もよい岩石です。
27.泥質片岩
 (愛媛県新居浜市河又)
   三波川帯のうち最も変成度が低い「緑泥 石帯」の変成作用をうけた泥質岩です。顕 微鏡下では、緑泥石や白雲母が晶出し、片 理の発達は良好で、著しい剥離性がありま す。野外で新鮮に見える岩石でもハンマー の打撃によって、うすく剥がれるように割 れます。
28.塩基性片岩
  (愛媛県新居浜市河又)

  三波川変成帯の「緑泥石帯」に属する 塩基性片岩です。緑泥石による片理の発 達は明瞭で、著しい剥離性によって特徴 づけられます。
29.珪質片岩
 (愛媛県新居浜市河又)

  三波川変成帯のうち、変成度がもっとも 低い「緑泥石帯」に属する岩石です。原岩 は層状チャートで、暗色部に 緑泥石が再 結晶しているものの、見かけ上、変成作用 の程度については判断がつきにくい岩石 です。
30.泥質片岩
  (愛媛県新居浜市西ノ谷川)

  三波川変成帯の「ざくろ石帯」に産する 泥質片岩。より変成度の低い「緑泥石帯」 のもの(27の写真サンプル)に似ています が、片理面の発達によって剥離性が増して いるように見えます。また、変成鉱物の再 結晶成長により片理面の凹凸が際立って います。
31.紅れん石片岩
  (愛媛県新居浜市西ノ谷川)

  三波川帯でも比較的変成度の高い ゾーンに出現する珪質岩源の結晶片岩。 原岩はチャートで、マンガンを含む紅 れん石と赤鉄鉱を多く含むことから、 鮮やかな紅色の縞模様を示します。 このような特徴的な色調から野外でも 容易に見分けることができる岩石です。
32.泥質片岩
 (愛媛県新居浜市西ノ谷川)

  本岩は、三波川帯のうちの「黒雲母帯」 から産出する泥質岩ですが、「ざくろ石帯」 や「オリゴクレース-黒雲母帯」に細区分 された地帯のものと同じようですが、若干 再結晶度が異なります。変成度の違いは 顕微鏡下で観察される出現鉱物にすると ころが大きいといえます。これは、珪質片 岩や塩基性片岩にもいえることです。
33.点紋泥質片岩
  (愛媛県新居浜市東平)

  三波川帯では変成度が高くなると再結晶 による粗粒化及び、黒雲母の出現とともに オリゴクレース(灰曹長石)の斑状変晶が 点紋として観察されるようになります。 泥質岩のオリゴクレース斑晶は暗灰色で 緑色の塩基性片岩にみられる白っぽい 斑晶(点紋)に比べて見分けにくいので 注意が必要です。
34.珪質片岩
  (愛媛県新居浜市東平)

  原石はチャートで、三波川変成作用のう ち、もっとも高い変成度地帯にみられる岩 石です。層状構造の多くは失なわれ、全体 が優白質で、塊状を呈しています。本来の 層面上には大きく結晶成長した白雲母が目 立ち、キラキラと輝くことなどから、野外 での識別は容易です。
35.点紋塩基性片岩
  (愛媛県新居浜市東平)

  三波川帯で最も高い変成度を示す地帯 に出現する岩石です。緑色の角閃石や 緑れん石が片理を形成し、その面にそっ て白色のオリゴクレースが斑状変晶(点 紋)として見られることから、野外でも 比較的容易に識別できます。有色鉱物と ともに斜長石の再結晶が進み、粗粒化す ることから、より変成度の低い塩基性岩 に比べて若干剥離性に乏しくなる傾向が あります。
36.含ざくろ石角閃岩
  (愛媛県新居浜市東平)

  大部分が角閃石と斜長石よりなる 岩石で、塩基性岩起源です。赤色の ざくろ石が斑晶として特徴的にみられ ます。変成鉱物の再結晶が進むため、 剥離性は弱くなります。
37.含らん晶石角閃岩
(愛媛県新居浜市東平)

  大部分緑れん石、角閃石、斜長石より 構成され、らん晶石(直径が1cmを超え る淡青色の巨晶)が斑晶状に含まれる岩石。 原岩は塩基性岩で、剥離性に乏しく硬質の 岩石です。
38.変斑れい岩
  (愛媛県新居浜市東平)

  原岩は斑れい岩で、三波川変成岩の うち最も高い変成作用をうけた地帯に 産します。斑れい岩組織を残している 岩石で、ほとんど塊状です。この岩石に 伴われる形で、変成をうけたダナイトや 輝岩なども産出します。
39.輝岩 (愛媛県新居浜市東平) 三波川変成帯の変成作用をうけた輝岩。 ほとんど輝石よりなる岩石ですが、その 一部は角閃石に変わっています。著しく塊 状の岩石 で、変成作用をうけたダナイト とともに変はんれい岩の分布域に産出します。
40.泥質片岩
  (山口県周南市須万)

  三郡変成岩類のうちで、ごく一般的に 見られる泥質岩起源の結晶片岩です。緑 泥石や白雲母による片理の発達は著しく、 ハンマーの打撃によって薄くはがれるよ うに割れます。変成鉱物としては、黒雲母 に似たスチルプノメレーンやざくろ石な どが伴われることもあります。
41.砂質片岩
 (山口県周南市須万)

  三郡変成作用をうけているものの砂粒 子は確認できます。したがって泥質片岩ほ どの剥離性は認められません。含有される 変成鉱物は泥質片岩とほぼ同様です。
42.塩基性片岩
 (山口県周南市須万)

  三郡変成帯に一般的に見られる塩基 性片岩で、緑れん石やクロス閃石を含む ことから、「緑れん石―らん閃石帯」に属 するとされてますが、らん閃石は含まれ ていません。緑色ないし暗緑色を呈し、 片理面の発達は著しい。写真サンプルに は米粒大の斜長石の斑状変晶がみられ、 三波川帯では点紋片岩と称されるもの に似ています。
43.珪質片岩
(山口県岩国市錦町出会)

  三郡変成帯のうち、「緑れん石― らん晶石帯」に産するチャート起源の 岩石。白雲母や緑泥石による片理面の発 達は著しく、剥離性も強い結晶片岩です。 時にざくろ石が認められることもありま す。
44.らん閃石帯の塩基性片岩
(島根県江津市波積町南)

三郡変成岩の中で、もっとも高い 変成度を示す塩基性片岩です。らん閃石 や緑泥石により片理面が形成され暗青色 で光沢のある岩石です。青味がかった色 調から、青色片岩(ブルーシスト)とも 呼ばれます。
45.蛇紋岩
(島根県江津市波積町南)

本岩は変成岩といえるかどうか 疑問ですが、高圧タイプの変成帯 には、しばしば伴われる岩石です。 かんらん岩(超塩基性岩)が変質 作用や広域変成作用で水と反応して、 蛇紋石に変化することによって生成 されます。表面はつるつるとして光沢 があり、黒、暗緑色、緑色などの色を 呈する独特の石です。この岩石は地す べりや岩すべりなどの地質素因となる ことが多い点で注目されます。




7.写真サンプルの変成相図(温度―圧力図)上での位置づけ
 変成岩の鉱物組わせは岩石の全岩化学組成と温度・圧力条件によって決まり、同一化学組成の 岩石は一つの変成相では同一の鉱物組成をもち、化学組成が変わると鉱物組成もそれにつれて 規則的に変化するという考え方にもとづいて、ある一定の温度・圧力範囲のもとで生成した と考えられる変成岩をひとくくりにしたものが変成相として定義されています。図に示す変 成相の温度・圧力領域を定量的に決定することは困難ですが、変成鉱物の産状等をふまえた 研究の蓄積や実験的な鉱物安定域の確立などからその範囲をおおよそ示すことができるよう になりました。写真サンプルの変成岩の概念をよりわかりやすくするために、変成相図の中に 書き入れてみました。図示した番号の位置が正確な温度・圧力を示しているとはいえないので、 一つの目安として参考程度と思って下さい。




〈参考資料〉
・変成相図は西村祐二郎ほか(2003)の「基礎地球科学」(朝倉書店)のP.83の図を 参考とした。
・ひすい輝石+石英-曹長石の反応曲線はPopp and Gilbert(1972)による。
・紅柱石-らん晶石-珪線石の安定領域はHoldaway(1971)による。
・沈み込み境界及びダイヤモンド-グラファイトの反応曲線は水上(2008)の日本の天然ダイヤモンド〜前弧に浮上したマントルの謎〜(JGL.No.1)を参考にした。

以上